【コラム】
槿と桜(62)

「朝」と「夕方」(2)

延 恩株

 前回、韓国人と日本人の「朝」と「夕方」の時間帯の受け止め方にズレがあるようだということから「朝」の時間帯について、過去に調査した資料を基に書きましたが、「朝」だけで切ってしまいましたので、今回はその続きです。

 「朝」の受けとめ方については、前回、次のようにまとめていました。
 「「朝」の終わりを10時までとする学生が両国とも一番多い傾向にあるようですが、日本の学生は韓国の学生より10ポイント以上も多くなっています。しかも際立っているのは「朝」を11時までとする学生が韓国では極めて少数なのに対して、日本では圧倒的に高い数字を示しています。
 これは「朝の始まり」感覚が日本人学生の方が遅いのと関連していると同時に、1日の生活スタイルが韓国と日本では異なっていることも関わっているのではないかと推測されます。」

 それでは「夕方」はどうだったのか、調査した数字から見ていくことにします。

「夕方」
 韓国人回答者
  13時~16時 1,5%
  14時~19時 1,5%
  17時~   1,5%、 17時~18時、1,5%、 17時~19時 4,6%、
  17時~22時 1,5%
  18時~   14,0%、 18時~19時 4,6%、 18時~20時 12,5%、
  18時~21時 6,2%、 18時~22時 4,6%、 18時~24時 3,1%
  19時~   4,6%、 19時~20時 3,1%
  20時~   1,5%、 20時~23時 1,5%
  21時~   1,5%
  夕日になってから 4,6%

 日本人回答者
  13時~17時 1,2%
  15時~18時 15,3%
  16時~   6,4%、 16時~17:30 1,2%、 16時~18時 47,4%、
  16時~18:30 2,4%、 16時~19時 6,4%
  17時~   5,1%、 17時~18時 1,2%、 17時~19時 2,5%
  18時~   2,5%
  無回答   7,7%

 以上の数字をまとめるとつぎのようになります。

「夕方の始まり」
 ・13時から 韓国と日本とも少数あり。
 ・14時から 日本では今回の回答者には無し。韓国には少数あり。
 ・15時から 日本は15,8%。韓国は無し。
 ・16時から 日本は62,8%。韓国は無し。
 ・17時から 日本は10,2%。韓国で 9,3%。
 ・18時から 日本は 2,5%。韓国は45,3%。
 ・19時から 日本は無し。 韓国は 7,8%。
 ・20時から 日本は無し。 韓国は 3,1%。
 ・21時から 日本は無し。 韓国は 1,5%。

 「夕方の始まり」の時間を比較すると、ここにも顕著な違いを見ることができます。日本では15時と16時を合わせると、78,6%の回答者が「夕方の始まり」としているのに、韓国ではこの時間帯を「夕方の始まり」とした回答者はこのときの調査では一人もいませんでした。
 一方、韓国では18時からを「夕方の始まり」とする回答者が45,3%と半数近くがこの時間帯に集中していて、日本では僅かに2,5%に過ぎませんでした。さらに日本人回答者には皆無だった19時~21時までを「夕方の始まり」としている韓国人回答者が12,4%もいました。

 そして「夕方の終わり」の時間帯を見ますと、そこには「夕方の始まり」とに連動性があることが以下の数字からわかります。

「夕方の終わり」 
 ・16時まで 日本無し。 韓国 1,5%。
 ・17時まで 日本 1,2%。韓国無し。
 ・18時まで 日本64,1%。韓国 1,5%。
 ・19時まで 日本11,5%。韓国10,9%。
 ・20時まで 日本無し。 韓国15,6%。
 ・21時まで 日本無し。 韓国 6,2%。
 ・22時まで 日本無し。 韓国 6,2%。
 ・23時まで 日本無し。 韓国 1,5%。
 ・24時まで 日本無し。 韓国 3,1%。

 日本人では18時までを「夕方の終わり」とする者が64,1%で「夕方の始まり」を16時とした62,8%と連動していることがわかります。日本人回答者では「夕方」を16時~18時とする者が多く、これに19時までを加えれば、75,6%が16時からの3時間程度を「夕方」とみなしています。
 一方、韓国人回答者は20時を「夕方の終わり」とする割合が15,6%ともっとも高い数字を示していますが、日本のような高い集中性が見られません。日本人が「夕方」とは見なさない20時~24時までを「夕方」とする割合が32,6%に登っています。非常に鮮明なのは、韓国の「夕方の始まり」は日本より2時間ほど遅く、「夕方の時間の長さ」が日本では2~3時間と考えている人が圧倒的に多いのに対して、夕方の時間的な幅が日本よりかなり長く見ていることです。

 これには韓国と日本の地理的な位置が関わっているという推測は可能だと思います。韓国と日本は時差がないことになっていますが、たとえば韓国のソウルに旅行してみれば、日本の東京と比較して朝は日の出が遅く、その分、夕方は日の暮れが遅いことに気づくはずだからです。
 このときの調査ではソウル近辺と東京近辺に暮らす学生たちでしたから、その時差が回答に反映していた可能性があります。しかし、即断はできないでしょう。日本のもっと南の地域で生活している人たち、あるいは農魚業やそのほかの第一次産業に従事している人たちの感じ方などはまだまだ未調査として残されているからです。

 また「夕方」の時間の幅が韓国の方が広く、日本は集中的な傾向が見られることには、韓国と日本の挨拶言葉の違いが反映しているかもしれません。日本には朝から晩までに、それぞれの時間帯に合わせるように「おはよう(ございます)」「こんにちは」「こんばんは」という誰もが知っていて、そして必ず使う言い方があります。
 でも韓国では一日中、いつでも「안녕하세요?」(アンニョンハセヨ)ですんでしまいます。かしこまった場や年長の人には「안녕하십니까?」(アンニョンハシムニカ)と使いわけるだけで十分です。

 日本語で暮らし始めて、朝は「おはようございます」、昼は「こんにちは」と言えばいいということは、太陽の動きや昼食などの時間帯がありますから、理解できたのですが、昼から夜に変わるとき、特に今回の調査で取り上げた「夕方」では、何と言えばいいのか、判断に迷ったものでした。正直言えば、現在もよくわかりません。「こんにちは」「こんばんは」、挨拶言葉としてどちらを使うのか、判断をつけなければいけないことが日本では起きるのです。

 このような民族が生み出した言葉と、その使い方の違いから「朝」や「夕方」の時間の捉え方を見ることができるのではないかと考えているのですが、この点については、稿をあらためて書いてみたいと思っています。

 (大妻女子大学准教授)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧