【コラム】風と土のカルテ(40)

「普通の町」の病院が陥った深刻な医師不足

色平 哲郎
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 最近、深刻な医師不足に陥った病院に週一度、当直勤務の「助っ人」として通うようになった。長野県の長和(ながわ)町と上田市が設立した、依田窪(よだくぼ)医療福祉事務組合が運営する国保依田窪病院(140床)が、その病院だ。とくに山間へき地や離島に立地しているわけではなく、上田市に隣接する「普通の町」の病院で医師が足りなくなっている現実にショックを受けている。

 依田窪病院にうかがった初日、病院長に、こう言われた。
 「内科救急患者は、医師の裁量でお断りをしてください。救急対応について相談される場合は、循環器は○○医師、その他内科は○○医師にご相談ください。外科治療を要する急性腹症の患者は、膵胆管系以外は佐久医療センター、膵胆管系につきましては、長野・松本方面の医療機関にご相談をお願いします」。

 これまで「どんな患者でも診る」ように教えられ、実践してきた身には衝撃的だった。救急患者を受け入れても対応できる態勢が整っておらず、近隣に回せる総合病院がないから、最初から断わる。下手に受け入れて「手遅れ」になるようなことがあってはならない、というわけだ。

 救急隊員は、救急患者発生の連絡を受けた時点で、長和町や上田市の外の医療機関へ患者を搬送することを考えている。地域内で少なくとも一次、二次救急をカバーできる体制がいかに重要か、改めて感じている。

●県に医師派遣を要請してきたもの…

 依田窪病院は、昨年3月時点では常勤内科医が6人いた。外来、入院、検査を常勤医が担当し、昨年度は休日・夜間の内科の緊急入院も173人受け入れた。
 しかし、長野県からの医師派遣の終了や定年退職などで今年3月には3人に減少。4、5月に短期で勤務していた医師も退職し、常勤内科医が2人となった。これではとても「休日・夜間の内科の緊急入院」に対応できず、前述のような対応をするしかないのだ。

 病院の運営者は、これまで医師不足を見越して県に医師派遣を要請してきたが、ここ2年、新たな派遣はないという。現在、信州大学付属病院(松本市)、諏訪中央病院(茅野市)からも非常勤医師が派遣されて緊急事態に対処している。

 それにしても、毎年8,000人以上も医師が誕生しているというのに、どうしてこのような医師不足が生じるのだろうか。繰り返すが、地方の「普通の町」で、医療崩壊につながりかねない危機的状況が発生している。

 充実した研修環境を求める若手医師は、地方の小規模な病院を敬遠する。医師が少ない病院は勤務環境が厳しいに違いないと考え、さらに足が遠のく。
 これでいいはずはない。

 医師の偏在を解消すべく、さまざまな施策が講じられてきたが、一向に改善していない。特に足りないのは「どんな患者でも診る」一般内科医(なんでもないか)だ。専門医の資格云々の前にやるべきことは山積している。

 (長野県・佐久総合病院・医師)

※この記事は「日経メディカル」2017年6月30日号から著者の許諾を得て転載したものですが文責はオルタ編集部にあります。
 http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/201706/551831.html

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