北の大地から               南 忠男

「うれしさも半ばなり」-北海道の7・29選挙- 

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◇ 自民党北海道~安倍不人気に加え、最悪の候補


 今回の参議院議員選挙(7・29選挙)与野党逆転でマスコミも大騒ぎだが、北
海道に住む私にとっては「うれしさも半ばなり」と言うところである。2議席独
占の可能性が十分ありながら1:1の五分の勝負に終わった。選挙をめぐる状況
は格差の被害の大きい北海道が与党にとって風当たりの強いのは当然としても、
とくに北海道選挙区の自民党公認候補は身内の不祥事(道議会議員である長男が
酒気帯び運転で逮捕され議員を辞職する)もあり、一時は橋本聖子との候補の差
し替え変更も一時検討された最悪の候補であった。
 選挙結果は、トップ当選の民主党公認小川勝也が101万8千票、2位当選の自
民党公認の伊達忠一が75万7千票、次点に泣いた無所属(新党大地副代表・民
主党・国民新党推薦)多原香里が62万1千票で、その差は3万6千票であった。
小川の得票のわずか3.5%を多原に廻せば、2議席独占・完勝ということになっ
たのである。


◇ 民主党~風だけがたよりで、司令塔なし


 世論調査、選挙情勢分析は、序盤戦から、「小川リード、伊達・多原横一線で
これを追う」と北海道新聞が報じていたが、結果は野党民主党小川の大量得票だ
がでも、議席は与野党が分け合うこととなった。選挙は議席数が勝負だから、勝
ち負けなしの同点である。
 今回の選挙結果は「与野党逆転」とは云っても残念ながら「与党の救いがたい
エラー」によるの失点であって、野党が打って出た得点ではない。北海道の民主
党も「風だけがたよりで、司令塔なし」であった。北海道の民主党も寄り合い所
帯で組織政党とは云えない状況にある。選挙戦を見ても、今春の大敗した知事選
よりはるかに動きが鈍かった。知事選のときは、道議・市町村議候補に連合傘下
の労組の組織内候補が多数立候補し、その候補を抱える労組の活動があっただけ
で、参議院選挙ではその労組(末端)の動きも鈍かった。他聞にもれず北海道民
主党は連合北海道が主力部隊であるが、その連合加盟の単組と末端の組合員~兵
隊さんが動かなければ組織とは云えないし、ましてや司令塔の役割など果たしよ
うがない。


◇ 北海道民主党~旧社会党の悪い尻尾を引きずったまま


 民主党小川優勢、自民伊達・無所属多原接戦の新聞報道は緒戦から変わること
はなかった。終盤、「当選後は民主党と同一会派を組む」と意思表明した多原候
補のテコ入れのため北海道民主党は党本部からに幹部の応援を要請し、菅直人代
表代理が急きょ応援に駆けつけたが、連合北海道は事実上この効果を半減これを
快く受け入れず、この多原候補の街頭演説に、小川候補の代理を強引に割り込ま
せるなど大人気ないさせるような行動が見られた。に出たり、また、多原候補の
街頭演説でマイクを持つ民主党の各級議員を半ば牽制するような行動もあった
と新聞も報じている。
 参議院北海道選挙区は改選4人の時代から与野党で議席を半々に分け合って
いた。共産党の小笠原貞子(平和運動家)を加えて、保革1:3の時代もあった。
社会党王国と云われたが、参議院選挙に関する限り労組候補をお互いに競わせて
得た勝利に過ぎなかった。改選議席4名区時代は労組の公務員労組(官公労)と
民間労組がそれぞれ代表を立て競い合った。労働貴族と云われた労組幹部の出世
街道の到達点が参議院議員のポストであったと云っても過言ではなかった(勿論
例外もある)。このため有為な人材を参議院に送り込むことのできなかった苦い
経験がある。この旧社会党時代の悪い尻尾・腐った尻尾をきれいに精算できてい
ない引きずっているのが北海道民主党である。民主党が政権を獲るにはこの尻尾
を断ち切らなければならない未だ道は遠い。


◇ 「新党大地」から学ぶこと


 今回の選挙は「新党大地」は善戦した。のひとり勝ちと云っても過言ではない。
新党大地は北海道で1人の国会議員(鈴木宗男衆議院議員)しかいないローカル
政党に過ぎず、候補者多原香里は33歳の無名の新人だが、政権党自民党と互角
に戦った実績に敬意を表したい。私は個人的には鈴木宗男のようなタイプの政治
家は好きではないが、新党大地の「候補者発掘さがし・北海道独特の政策・地を
這うような行動力」には脱帽である。と云う政党に欠かせない三点セットには学
ぶところが大きい。
 民主党の人材不足、知事選挙での候補者探しの幼稚さには呆れる。前回(03
年)も失敗し、最後に衆議院議員を立てたが、今回(07年)も同じ躓を踏んで
いる。今回はじめて公募方式を取り入れた。公募方式は悪くないが、本人の了解
を得ない他薦方式はいかがなものか。旭山動物園の園長まで登城し、マスコミの
笑い話となった。北大大学院教授の山口二郎氏の名前も挙がったが、本人に一蹴
された。これも、事前に三顧の礼を尽くして説得すれば別の展開もあったかと思
う。最後に、旭川市出身の現役財務官僚の名前が残ったが、これも本人が辞退し
て決着。高校卒まで旭川市に住み、親も旭川の実業家であるにしても、官僚の天
下りと云う点では高橋現知事と変わらない。このように候補擁立の段階から戦略
が定まらないのでは勝負にならない。


◇ アイヌ(先住民族)と北方領土


 小泉・安倍政治の格差政策の象徴が夕張問題であるが、明治政府以来続いてい
る北海道開拓・開発政策はアイヌ(先住民族)迫害の歴史であり、いま、それが
格差として続いている。北方領土の解決も政治的に忘れ去られた感があるが、「北
方領土も北海道も先住民族はアイヌだ」と訴え、北方領土解決に新たな視点で迫
る新党大地の迫力には多くの道民の共感を得た。
 サハリンを含むロシア極東の天然エネルギー開発は、中東の石油に頼る日本に
とっては殊更重要な課題である。新党大地はロシア極東のエネルギー開発協力を
強く訴えていた。アメリカ一辺倒の外交路線はエネルギー資源の問題からも派生
している。
 自民党北海道は洞爺湖サミットと新幹線の札幌延長をオウム返しに訴えてい
たが、北海道の地域崩壊をくいとめるのに新幹線札幌延長が有効とは考えられな
い。むしろ札幌圏集中のゆがみを加速させるだけの話である。北海道には必要な
公共事業は沢山ある。問題は優先順位である。新幹線の札幌延伸は優先課題とは
云えない。地方の鉄路はズタズタに切られ、代替のバスは青息吐息。住民の足が
なくなれば地域は崩壊する。瀕死の北海道再生のプログラム~マニフエスト北海
道版が急がれる。
(「北の便り」を今回から「北の大地から」に改題させていただきます)
      (筆者は旭川市在住・元旭川大学非常勤講師)。

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