■ 海外論潮短評【番外編】

~現代ジャーナリズムの官僚化~         初岡 昌一郎

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日本外国特派員クラブの機関誌『ナンバーワン新聞』3月号に、『日本権力の謎
』など日本についての著書も多い、ベテランのオランダ人ジャーナリスト、カー
ル・ファン・ウオルフェレンが、表題の論文を寄稿している。その要旨を掻い摘
んで以下に紹介する。

主要なアメリカの新聞や多くのヨーロッパの新聞による対テロ戦争についての報
道は、ブッシュ・チェイ二-時代の真実とその結果を正確に伝えるのに役立って
いない。

質の高い新聞に将来がないとか、ジャーナリズムは死につつある職業だとの声を
よく耳にするようになった。名指しにされる理由には、企業権益の影響力、論説
のだらしなさ、視覚メディアに活字が押されていること、拾い読みの一般化など
があげられており、それらはもっともである。

しかし、ジャーナリストの怠慢が酷い。公式発表をそのまま伝え、それに賛否両
論を併記するのが中立性を守ることだと錯覚している。中立性と客観性は違う。
真実を掘り下げるよりも、上司と編集上の指向に合わせて記事を書いている。

『ウオール・ストリート・ジャーナル』紙のバグダッド支局長ファルナズ・ファ
シヒが、彼女の日常の生活から得た結論を友人にメールで送った。その多くの結論
を記事にすることは"自殺行為だ"と彼女は述べた。対ゲリラ戦に用いられている
野蛮な方法、ほとんどの建設プロジェクトの行き詰まり、状況改善の条件の不在
等々が指摘されていた。彼女は、「ブッシュ大統領のばら色のアセスメントにも
かかわらず、イラクは大混乱のままで、外交の失敗が今後何十年にもわたりアメ
リカをしばしば悩ますだろう」と書いた。

このメールが不注意にもインターネット上に流され、大問題となった。しかし、同
紙の編集者が彼女をかばったので事なきを得た。でもそのロジックは奇妙なもの
だった。彼女の個人的な見解は、同紙の報道の公正さと正確さに影響を与えてい
ないというのだ。

発表や話について、賛否両方のコメントをつけて報道するのが公正で、バランス
の取れたものとするたてまえにたつ新聞が、ブッシュの政策を支え、誤りを隠し
た。このことがジャーナリズムにたいする信頼を著しく傷つけた。公式発表が真
実を隠している時、それをそのまま報道するのはジャーナリストの倫理に反する
だけではなく、怠慢である。

大学でジャーナリズム講座が花盛りになるにつれ、こうした安易な報道様式が幅
を利かせるようになった。記者は、形式的な中立性の表装を気にしたリ、上司で
ある編集者に阿るのに腐心するよりも、自らの直感を磨き、真実を追究すべきだ
。よい記者は形式にこだわるよりも、良識に頼り、質問を磨き、鋭い批判者とな
らなければならない。不幸にして、このようなジャーナリストは、主流のメディ
アではますます少なくなっている。

希望は何処にあるだろうか。インターネット上のザミスダート(ソ連時代の非公
式地下出版)的なニュースと評論が非常に活発になり、信頼性と影響力を高めて
いる。素晴らしいライターが続々登場しており、政治報道に良識を注入する能力
を立証している。諸君もこれに加わろう。
              (評者はソーシアルアジア研究会代表)

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