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◎国のかたちを米国基準に変えるTPP参加に反対する。
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□目次
■米国はTPPで日本の沃土を狙っている 濱田 幸生
〜TPPとそれを呼び込む新自由主義国内改革路線を許すな!〜
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≪連載≫
■海外論潮・短評(51) 初岡 昌一郎
〜アメリカの終わりか ― 不平等と社会的衰退〜
■A Voice from Okinawa(26) 吉田 健正
〜八重山に育鵬社の公民教科書〜
■宗教・民族から見た同時代世界 荒木 重雄
〜エジプトの国家再建で問われる宗教間融和〜
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■【運動資料】TPP問題について 篠原 孝
1)韓国と日本の大きな違い
2)TPPの経済的メリット・デメリット
3)アメリカのしたたかな戦略とオバマの見え見えの打算
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■ブータンのGNHと仏教思想 坪野 和子
〜伝統的な価値観による国家の自立と発展〜
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■【横丁茶話】
ある握手etc 西村 徹
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■【北から南から】
中国 深センから 佐藤 美和子
『中国携帯詐欺事件』
英国 コッツウォルズ 小野 まり
『英国の子育て・教育』
米国 マジソン便り 石田 奈加子
『アメリカ、アメリカ』
アジア・上海 石井 行人
『就労する外国人から保険料を徴収』
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■【エッセー】
メイ・サートン(1912−1995)の魅力 高沢 英子
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■【NPO紹介】
NPOナショナルトラスト・サポートセンター
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■俳句 富田 昌宏
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■川柳 横 風 人
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■【編集後記】 |
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■ 米国はTPPで、日本の沃土を狙ってくる! 濱田 幸生
〜TPPとそれを呼び込む新自由主義国内改革路線を許すな!〜
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■鏡の国TPP。ここは海外投資家の楽園。自国民を守るという常識が通用しない
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「壊国」が始まった!
野田首相は2011年11月13日、ついにルビコン川を渡ってしまいまし
た。日本の主権に関わることが、なにひとつ国民に情報提供されることなく、ま
して国民的議論のひとつもなく、ただひとりの男の判断で決せられたのです。
国会議員の過半数が反対を唱え、自民から共産に至る野党が反対し、地方議会
の9割にも及ぶ反対決議を押しつぶしての暴挙でした。このような政治決定にい
かなる正当性もありません。ただちに総選挙をするべきです。
さて、TPP推進の核心とでもいうべきISD条項に対して奇妙な楽観論がは
びこっています。ISD条項(*ISD 国際投資紛争仲介センター)とは、た
とえば、TPP発効以降、海外投資家が投資している現地法人が国内法によって
不利益をこうむった場合、国際仲介機関に提訴できるというものです。
このISD条項を使えば、この海外投資家が「期待した利益がえられない。国
内法の障壁のせいだ」と思ったら、米国政府が代わりに提訴できるという危険き
わまりない条項です。その場合日本政府自身がいかなる条約違反もしていなくと
も、提訴可能となります。そしていったんその提訴がSDIで認められれば、国
内法を変えるか、超越することができます。
わかりますか、この意味のスゴサを。私たちは、自国民の健康、安全、環境を
自分の意思ではなく、外国に委ねてしまうということですよ!
たとえば、米国の自動車の安全基準はわが国より低い水準にあります。農薬の
制限もゆるく、その中には既にわが国で禁止された農薬も多数あります。遺伝子
組み換え(GMO)は無規制です。というより、今や9割の米国穀物がGMOで
す。 米国のBSE検査体制のルーズさは有名で、いまだに割った脊椎が入って
くる始末です。全頭検査も日本にいわれてイヤイヤやっているのです。
このように、米国の安全基準はわが国よりはるかに低いレベルにあります。米
国は輸出に際して、余計な検査を強いる国内法が関税外障壁になっていると
1990年代から一貫して主張してきました。農薬規制、GMO、BSEなどは
真っ先に米国の提訴の餌食となるでしょう。
TPP以前ならば、これらは国内法という主権でガードされていましたが、
TPP以降はまったく違ってきます。ISD条項は国内法を超越する「スーパー
法」だからです。 米韓FTAでは、韓国政府が「規制の必要性を自ら証明でき
なければ、市場開放の追加措置を取る必要がある」という条項を押しつけられま
した。よくこんな不平等条項を韓国は呑んだものです。
TPPにおいても同様の条項が盛られるでしょう。たとえばその場合、日本は
わが国で禁止している農薬に対しての膨大な規制の正当性をひとつひとつ挙証証
明せねばならなくなります。もちろん英語でです。 馬鹿な話です。こんなこと
をなんで外国人に説明せにゃならんのですか。農薬の健康上の害を受けるのはわ
が国の人間で、ここはわが国の主権内なのに、なぜ外国人に英語で膨大な説明を
しなければならないのでしょうか。
そしてTPP以降できる国内法は、TPPでクレームをつけられるかどうかを
自主規制して考えねばならなくなります。単に経済協定なのにかかわらず、わが
国はまるで憲法のようにTPPを仰ぎ見ることになるのです。 鏡の国TPP。
ここは海外投資家の楽園。自国民を守るという常識は通用しないのです。まさに
「壊国」です。そして、この「壊国」は黒船に乗ってやって来るたけで
はなく、国内にそれを呼び込む人たちがいました。
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■民主党政権は新自由主義TPP改革をめざしていた
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ここに2つの「新成長戦略」があります。 ひとつは、菅内閣が2010年
6月に作った「新成長戦略」です。 二番目は、経団連の2010年4月に出し
た「経団連成長戦略2010」です。 では、これら2つを対照しながら見てい
きましょう。6つ分野があります。
1)グリーン・イノベーション、環境・エネルギー大国戦略(民主党)
・環境・エネルギー大国戦略(経団連)
2)ライフ・イノベーションによる健康大国(民主党)・健康大国戦略(経
団連)
3)アジア経済戦略(民主党) ・アジア経済戦略(経団連)
4)観光立国・地域活性化戦略(民主党)・観光立国・地域活性化戦略(経団連)
5)科学・技術・通信立国戦略(民主党))・科学・技術立国戦略(経団連)雇
用・人材戦略(民主党) ・雇用・人材戦略(経団連)
6)・金融戦略(民主党)・成長を阻害する規制の改革(経団連)
6番目を除いてまったく丸写しです。参考にしたという生易しいものではなく、
経団連戦略に沿って忠実に作ったのが、民主党「新成長戦略」です。 なお、
経団連が6番目に上げた規制緩和は、民主党政権発足と同時に行政刷新会議
による事業仕分けで既に実現しています。 国民はあれを「税金の無駄使いを
なくす」と好意的に受け取りましたが、実態は財界による「成長を阻害する規制
の改革」でした。 つまり、民主党の「成長戦略」と称するものはすべて財界の
言うがままに作ったものだったわけです。
さて、この3)の「アジア経済戦略」の中に、「アジア・太平洋自由貿易圏」
(FTAAP)としてTPPが出てきます。 おそらく小泉改革に次ぐ戦後最
大の「改革」となることでしょう。その力量が民主党にあるかははなはだ疑わし
いですが。民主党には突破口さえ作ればいい、それから先はまた自民にやらせる
さ、というのが財界の本音でしょう。
国民は小泉改革で受けたダメージを癒すために「生活第一」を高らかに謳った
民主党に過剰な票を与えてしまいましたが、現実の民主党はリベラルの仮面を
被った小泉改革の継承者だったのですから、救いようがありません。
それはさておき、平成22年11月9日、菅内閣は閣議決定として「包括的経
済連携に関する基本方針」を決めました。 これはTPPに参加することを決め
たいわば歴史的文書と後世言われるしろものですが、この中にTPPを参加する
「前提条件」としてまっさきに農業がでてきます。
閣議決定の3、「経済連携交渉と国内対策の一体化」の(1)項農業の中には
こうあります。--「競争力向上や海外における需要拡大等わが国農業の潜在力を
引き出す大胆な政策対応」。
この受け皿としてできたのが、「食と農林漁業の再生実現会議」です。
「農林漁再生実現会議」とは、今まであった各種の農業振興対策一般ではな
く、TPP締結をにらんでの地ならしのための会議だったわけです。
「再生会議」が狙っているポイントのみ記します。別稿で詳述します。
・09年の「農地法」改正による企業の農業参入を、現在の食品関連企業から一
般企業レベルまで拡げる。
・農業法人に対する出資比率を原稿の50%未満から、無制限にする。
・農地監視機関としての農業委員会の弱体化と解体
・生産規模と農地の集約化・大規模化
このようにTPP締結を待たずして、先行して「競争力強化」の名に隠れて
21分野すべての「改革」が実行されると考えたほうがいいでしょう。わが農業
は、その最大のTPP地ならしのための戦場となります。
民主党政府は、財界型農業改革を強制してくるでしょう。農業団体を黙らせ、
農業を「改革」しなければぶち上げた「国際公約」としてのTPPは実現しない
からです。この数年が日本農業にとってほんとうの切所となるでしょう。米国と
財界の言うがままに農業を解体されるのか、それとも真に強い農業を作るのかの
生き残りをかけた闘いが始まります。
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■TPPには黒船と、それを導き入れる勢力があった
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TPPは、日米関係の悪化に怯えた菅前首相の思いつきのように出てきまし
た。しかし果たして、TPPとは単に米国への外交的配慮からだけのものなので
しょうか? そうではありません。わが国内部には外の黒船に呼応する考え方
がしっかりと存在しています。それが先に述べた「新成長戦略」という政界−財
界共通の新自由主義路線です。
この「TPPの思想」とでも言うべき流れは今までも日本国内にあり、外国勢
力と結びつくことで外圧利用で国内の「改革」を遂げたいと思っています。 民
主党が目玉政策としている「行政刷新会議」というものがあります。なんのため
に作られたのでしょうか。結果的にバラ撒きの財源が出ればよし、しかし目的は
別にあったはずです。
ひとことでいえば、「規制緩和と制度改革」です。 2010年3月、行政
刷新会議のなかに、「規制・制度改革についての分科会」が設けられました。こ
の内容は、驚くほどTPPで想定されている{黒船」の内容と酷似しています。
たとえば、医療介護分野の「ライフ・イノベーション」と称される中には、今
TPPで問題となっている公的医療制度の解体と、民間医療保険による混合診療
制度への解禁が堂々とうたわれています。
この行政刷新会議の医療改革が実現すれば、いかなる僻地でも、老人でも等し
く安い価格で受けられた医療・薬価制度が崩壊してしまうことになります。
これはTPPで米国の要求してくることが確実な公的医療保険の解体と、米国な
どの民間医療保険会社の参入と見事に照応しています。
TPPにおいては、外国人医師、看護士や介護士の大量移民も要求に登ること
でしょう。行政刷新会議とTPPが違うことは、ただ「外国」を表に出すか出さ
ないかだけの話です。
また、農業分野でも、「農林・地域活性化」として、「新規農協設立の強化」
や「農業生産法人の規制のさらなる緩和」といった項目が登場します。 これは
現在、農地が農地法3条により農家以外に解禁されていないことを緩和し、全
面的に他業種の企業にも開放して参入を促すことが目的です。(*農地法3条自
体は改正されていますが、執行されていません。)
これもまた、TPPで米国が要求してくるであろう、「農地の取得要件の緩
和」という名の外国人資本による農地買収と、農業参入と見事に対をなしていま
す。 この目指すところは、まっすぐにJAの胸元に突きつけられています。
「改革」を唱える新自由主義経済的流れにとって、JAは最大の障壁だからで
す。かつての新自由主義の先駆であった小泉改革の郵政改革が、郵便局を「敵」
にみたてたとすれば、今回のTPPの標的はJAと医師会です。
おそらくTPPによって、JAは共済制度をもぎとられて経営基盤が揺らいだ
ところに、コメや酪農の無関税化による離農で組合員数を大きく減らし、更にと
どめのように新規外国資本参入を食らって壊滅的な状態になるでしょう。さて、
民主党中枢は、2011年10月1日に横浜APECで菅直人氏がTPP参加
を言い出すまで、その内容を知らなかったはずがありません。知らなかったのは
私たち国民だけです。
山田正彦前農水大臣は、このTPPという文字を「2010年夏に閣僚懇談会
で見た」と証言しています。(インターネット誌「ザ・ジャール」による)とな
ると、もう既に去年の夏の時点で、民主党内部ではTPPが何者か、なにを目指
しているのかについて情報があったことになります。時計を遡ると2009年
11月14日に、訪日したオバマ大統領は、「米国はTPPに参加する」と演説
しました。
そしてまさにその同日、USTR(米国通商代表部)のロナルド・カーン代表
は、「米国はTPPをAPECなみの広域自由貿易協定にするつもりで、これは
FTAではできなかった諸懸案を解決することだ」と述べています。そして翌
月、カーク代表は、「TPPは工業、農業のみならず、金融サービスまで含む」
と書簡の中で述べています。
またオリジナル・メンバーによるTPPは、2004年に締結し、2006年
に発効していますが、その中にもしっかりと「農業、工業、金融、医療、政府調
達、法務サービスの自由化」が書き込まれています。では、時系列に沿って整理
しましょう。
・2004年。締結のTPP原型締結時の内容が「工業、農業、金融、法務、政
府調達」に及ぶ大きな範囲を覆っていること。
・2009年11月。オバマ大統領訪日演説で、「米国はTPPに参加する」と
の発言。
・同日,及び翌月のUSTRカーク代表の「TPPは工業、農業、金融にまたが
る広域自由易圏である」という発言。
・2010年3月。行政刷新会議の「ライフ・イノベーショ」(混合医療制度)
と、「農業の規制緩和」。
・20010年夏。山田前大臣証言。「TPPは閣僚講で資料が配られていた」。
・2010年10月。菅直人首相のAPEC席上のTPP参加発言。
このような流れで見れば、TPPが突然現れたものではないことがわかるはず
です。そして、前原前外務大臣が言うような「農業の対GDP比率は1.5%。
98.5%は農業の犠牲になるのか」という発言が、いかに虚偽に満ちたものか
お分かりになるでしょう。
前原氏はTPPをがいかなるものかのすべての情報を持ちながら(でなければ
外相などやめてしまえ)、あえて農業のみを叩いたのです。
それは農業が分かりやすい「悪役」だったからです。農業ほど反論せずに耐え
忍んでしまう部門が他にありますか。だから、彼は農業を標的にしたのです。あ
たかも98.5%の国民が農業によって迷惑しているような比喩を用いて。
民主党政権は、TPPが農業のみならず、医療、金融、法務、政府調達まで含む
ことをそうとう前から知りながら、農業を生贄とするTPPによる黒船型日本改
造をもくろんでいます。
そのためにTPPの全容から国民の目からそらし、単なる農業問題に過ぎない
という矮小化された情報を国民に印象操作したいのでしょう。
TPPを止める闘いは、「規制緩和、制度改革」を錦の御旗にした新自由主義的
日本改造が底流にあり、それを米国流の黒船でなし遂げようとする勢力との「国
の形」をめぐるものになります。
それがわかっているからこそ推進派はわずか1か月で、なにもかも国民に秘匿
したまま突き進もうとしたのです。
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■米国はTPPで、日本の沃土を狙ってくる。関税以外のもうひとつの農業侵略
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さて、TPP問題をややこしくしているのは、農業関係の反対論が、「自給率
が13%になる」とか、「米価崩壊で経営崩壊」というトーンなことです。 私
は同じ農業者ですが、そうならないと思っています。確かに農業が危機的状況に
なることは確かですが、無関税化⇒米価暴落ではない道筋で襲来すると思いま
す。 というのは、TPPの前身であるNAFTA(北米自由貿易協定)での、
カナダと米国の穀物紛争をみればわかります。
米国はカナダを、カナダ政府小麦局やカナダ農協によって独占支配されている
とWTOに提訴しています。 確かにカナダ農協は、各地域の協同組合組織を
統合して株式会社化していますが、それはなぜだったでしょうか。
NAFTAによってカナダの穀物生産は短期間で危機的状況を迎えます。小
麦、大麦、油糧穀物(キャノーラ)、食用牛の加工までもが、7割から9割米国
系アグリビジネスに独占されるという事態が生じたのです。 それに対抗して
カナダは、自国の穀物生産を統合し、強化する必要に迫られました。これと似た
対抗措置は、米韓FTAにおいても韓国が牛肉などの流通統合や合理化でしてい
ます。
もしこのカナダの統合政策がなければ、間違いなくカナダ農業は短期間でほぼ
完全に米国支配に置かれてしまったであろうことが想像できます。 現時点にお
いても、カーギル一社だけでカナダ・サスカチュワン州のキャノーラ製造の
45%を支配していますが、協定締結時のシェアが11.9%だったことを考え
ると、未だカナダ農業の大きな部分を米国アグリビジネスが握ったままななのが
分かるでしょう。
ではここで、米国の日本農業市場のTPPによる「侵略」はどのようになされ
るのかを考えてみます。 私はジャポニカ米のモノとしての流入は限られるの
ではないか、と考えています。米国産のジャポニカ米は市場でわずか4%でしか
ありません。しかも、それが生産できる地域は限定されています。 できるの
はカリフォルニアと南部諸州ですが、カリフォルニアは水に制限があり、南部諸
州の気候では、日本人の口に合う高品質な米を生産することは難しいと思われ
ます。
東南アジアという声もありますが、現在日本商社が現地邦人向けとして少量を
生産している段階です。今後TPPをにらんでベトナム、マレーシアでの日本向
け生産も始まるでしょうが、脅威となるにはまだ相当な時間がかかります。 そ
のていどにはわが国のコメの生産と育種技術は、外国の安易な追随を許さないレ
ベルに達しています。
したがって短期的にはコメの暴落はないと私は思っています。しかし、中長期
的になると様相は違います。それはTPPが関税問題だけではないからです。
TPPは煎じ詰めると、「モノ、カネ、ヒト」の三つの自由化のことです。 モ
ノで入ってくるのは、関税問題です。カネで入ってくるのは、資本投資や保険、
金融サービスなどです。ヒトで入って来るのは、看護士や介護士、医師、そして
単純労働者などです。
米国は農業部門においておそらく資本投資の道を選ぶでしょう。モノである穀
物や油糧穀物はすでに日本市場に行き渡っており、牛肉、豚肉、小麦、酪農製品
の輸出の無関税化は当然のこととしてまっさきに要求するでしょう。 TPP問
題はモノにとどまりません。2009年の農地法改訂で、農地に企業参入の道が
開かれました。TPP発効となれば、米国アグリビジネスの参入は可能となります。
米国が日本という世界でもっとも生産性の高い沃土を狙っているとすれば、
TPPというビッグチャンスを逃すはずがありません。 コメの生産は経団連や
同友会の計算どおり農地の統合、整理による大規模化が実現すれば、理論的には
今の3分の2ていどのコストでの生産が可能です。 ただし現実には、地権や点
在する農地の問題が出てくるでしょうが、国が資本と組んで農業団体の反対を押
し切ればまったく不可能なわけではありません。
居抜きで使える改良区などは真っ先に標的になり、外国アグリビジネスが札束
で頬を叩きに来ます。その時には、外国アグリビジネスは、国内農業法人格を取
得して外国資本日本農業法人として農地を借りたり、買ったりできるようになっ
ています。
そこに、TPPで大量に流入してくる安価な東南アジア農業労働者を使って大
型化すれば、国際競争力のあるコメ商品の一丁上がりです。 それを売りさばく
のは同系列のアグリビジネス商社であり、、GM種とGM対応農薬とのワンセッ
ト販売もアグリビジネスを更に潤おわせることでしょう。 このようにして、コ
メのGM品種−GM対応農薬−大規模農地−大量生産−大量流通−大量輸出とい
うコメ・インテグレーションのラインが完成します。
現状ではOECD留保扱いになっているようですが、そのようなものはTPP
の前に一瞬で消滅します。 同じようなことは野菜や果樹でも進行するでしょ
う。それは外国アグリビジネスの日本農業支配です。TPPによって、米国は日
本農産物という世界有数のアグリ商品を手にすることができるのです。
このようなことになった場合、日本農業は死活をかけて闘うことになります
が、その予防線も既にTPP条項に仕込んであります。 それがISD条項で
す。ISD条項は、「海外投資家が不利益を被ったと自分で判断すれば、協定違
反であろうとなかろうと相手国を提訴できる」というすさまじいまでに海外投資
家を優遇した条項です。 このような米国アグリビジネスの日本農業支配をぜっ
たいに許してはなりません。
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■11月APECで参加表明しても、米議会承認まで半年待たされて、TPP交
渉ルール作りには参加できないことがわかった
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このTPP交渉参加で国民皆が思うのは、「なんでこんなに急ぐんだろう」と
いう推進派の焦り方です。わずか正味1か月で決めようというんですから、なん
ともすさまじい限りです。 常識的に言っても、これだけの大問題を、ろくな
国会審議もせずに、国民に内実を知らせずに踏み切るということ自体、なんだか
な〜と思う国民は賛成反対を問わず圧倒的に多いようです。
その理由のひとつを、当時国家戦略局のおそらくは玄葉光一郎氏(現外相・松
下政経塾第8期))が書いた内部文書は、こう説明しています。(末尾資料参照)
http://mainichi.jp/select/biz/news/20111028ddm005020026000c.html
「米国がAPECで政権浮揚につながる大きな成果を表明するのは難しい。日本
が参加表明できれば、米国が最も評価するタイミング。これを逃すと米国が歓迎
するタイミングがなくなる。」 再選をめざすオバマ大統領は、11月の
APECでの成果を上げたいと思っているから、日本がTPPで手柄をたてさせ
てやることで、米国が評価してくれるだろう、という願望めいたものだったこと
が分かりました。
そしてもうひとつの理由が、「交渉参加時期を延ばせば、日本は原加盟国にな
れず、ルールづくりに参加できない。出来上がった協定に参加すると、原加盟国
から徹底的な市場開放を要求される」、というものです。 前者は政府の思惑
ですからともかくとして、後者は政府筋と推進派からひんぱんに流されたアナウ
ンスでしたからご記憶に新しいと思います。 このTPP推進派の理由づけ
も、どうも怪しくなりました。
外務省と思われる以下の内部文書は次のように政府に状況を説明していまし
た。 「米通商代表部(USTR)の高官が、日本の参加を認めるには米政府・
議会の非公式な事前協議が必要で、参加決定に時間がかかるため「受け入れが困
難になりつつある」との認識を示していた。」 この政府内部文書によれば、
米国議会の参加審議には半年かかるために、いくら11月のAPECで米国にゴ
マをすっても、米国としては、「歓迎しますが、議会にかけてみますので半年
待って下さい」、と答える公算が高いということになります。
そして米議会筋はこう言います。 「日本を受け入れるため、現在、米国やチ
リ、豪州など九カ国で進行中のTPP交渉を遅らせることは望ましくなく、既に
参加期限は過ぎた、と明確に述べている」。 つまり11月に参加表明をしよ
うとしまいと、参加ルール作りには日本は加わる余地はないのだ、という先行国
の意思です。
実は既に、米国はNZとのTPP交渉においてこんなことを言っていました。
(日本農業新聞5月19日参照) 「初のTPP交渉8カ国でゴールド・スタン
ダード(絶対標準)に合意できれば、日本、韓国その他の国を押しつぶすことが
できる。それが長期的な目標だ」と語った。(米国大使館公電から)」
この在NZ米国大使館の公電は、ウイキリークスの
"Viewing cable 10WELLINGTON65, DAS Reed Engages on TPP, U.N. form,
Environmental"(2010年2月19日)が原文です。
http://wikileaks.org/cable/2010/02/10WELLINGTON65.html
これによれば、米国は去年10年2月段階で既に、日本と韓国を標的とした
「ゴールド・スタンダード」を考えていたことになります。
「ゴールド・スタンダード」という言葉は元々は、「金本位制」のことです
が、転じて絶対基準という意味で使われています。
米国はNZとの交渉の席上で、このようなもくろみを語っています。
「農地への投資制度や食品の安全性などの規制や基準を統一した「絶対標準」を
定め、受け入れ国を広げることで経済自由化を進めようとしている」。
もう既にレールは敷かれているのです。そしてルール作りには日本は参加させ
ない、これが先行諸国の意思であり、なによりも米国の意思です。
そして、極めてわが国に不利な「ゴールド・スタンダード」が、なんのルール
づくりにも参加できないわが国を待ち受けているというわけです。
常識に立ち返る必要があります。このような拙速の極みでTPP参加に突っ
走ってもなにひとつ良いことはない、これが時間が立つに連れて明瞭になってき
ました。政府は、まず既に締結されているTPP協定の和訳と各関係省庁の
TPP関連内部文書を開示するべきです。
話をいったんそこまで戻してから、進めても遅くはありません。なにせ、どう
急いでも米議会で半年間ペンディングされて、ルール作りにも、交渉内容にも触
れられないまま二者択一で既決した「ゴールド・スタンダード」を飲まされるこ
とになるのですから。(了)
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■資料 政府 国家戦略局内部文書
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TPP:政府、文書に本音 11月表明「米が最も評価
<毎日新聞 10月28日(金)2時31分配信>
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環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉への参加問題で、交渉に参加し
た場合のメリットなどを分析した内部文書を政府が作成していたことが、27日
分かった。文書は参加表明の時期について、11月のアジア太平洋経済協力会議
(APEC)が「米国が最も評価するタイミング」と指摘。「TPPに参加表明
するからこそ(現在進めている)EU(欧州連合)や中韓との交渉が動く」とし
て、参加表明が他の2国間のEPA(経済連携協定)交渉にも好影響を与えると
の考えを示した。
野田佳彦首相はAPEC前の交渉参加表明を目指しているが、与野党には慎重
論もある。交渉参加のメリットと参加しなかった場合のデメリットを分析し、参
加の必要性を説明するための資料となるとみられる。
文書は「APECで交渉参加を表明すべき理由」として、12年の米大統領選
を挙げた。「米国はAPECで相当の成果を演出したいと考えている」と指摘。
日本が交渉参加を表明すれば「米国は『日本の参加でTPPが本格的な
FTA(自由貿易協定)となる』と表明可能」になり、大統領の成果になると分
析した。
参加表明を決断できない場合、他のEPAやFTA交渉への悪影響に言及。交
渉が始まっているEUについて「足元を見られて注文ばかりつけられる」と予
想。中韓とのFTAも「中国に高いレベルの自由化を要求できなくなり、交渉入
りできなくなる可能性が強い。中韓FTAだけ前に進み日本が取り残される」と
している。
選挙への影響を懸念する党内意見については、衆院解散がなければ13年夏ま
で国政選挙がないことに触れ「交渉に参加しても劇的な影響は発生しない」とし
た。 文書は慎重派との「落としどころ」にも言及。実際の交渉参加は最短で
12年3月以降と見込み「3月までにしっかり議論し『参加すべきでない』との
結論に至れば参加を取り消せばよい」と指摘。取り消す場合は「党側が提言し、
政府は『重く受け止める』とすべきだ」と提案した。「日本が直面しているの
は、参加を途中で取り消す『自らの判断』が批判を受けることではなく、方針を
示せないという『自ら判断を下さないこと』に対する批判だ」と指摘した。
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◆政府のTPPに関する内部文書(要旨)
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▼11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で交渉参加表明すべき理由
・米国がAPECで政権浮揚につながる大きな成果を表明するのは難しい。日本
が参加表明できれば、米国が最も評価するタイミング。これを逃すと米国が歓迎
するタイミングがなくなる。
・交渉参加時期を延ばせば、日本は原加盟国になれず、ルールづくりに参加でき
ない。出来上がった協定に参加すると、原加盟国から徹底的な市場開放を要求される
・11月までに交渉参加を表明できなければ、交渉参加に関心なしとみなされ、
重要情報の入手が困難になる
・韓国が近々TPP交渉に参加する可能性。先に交渉メンバーとなった韓国は日
本の参加を認めない可能性すらある
▼11月に交渉参加を決断できない場合
・マスメディア、経済界はTPP交渉参加を提案。実現できなければ新聞の見出
しは「新政権、やはり何も決断できず」という言葉が躍る可能性が極めて大き
い。経済界の政権への失望感が高くなる
・政府の「食と農林漁業の再生実現会議」は事実上、TPP交渉参加を前提とし
ている。見送れば外務、経済産業両省は農業再生に非協力になる
・EU(欧州連合)から足元を見られ、注文ばかり付けられる。中国にも高いレ
ベルの自由化を要求できず、中韓FTA(自由貿易協定)だけ進む可能性もある
▼選挙との関係
・衆院解散がなければ13年夏まで国政選挙はない。大きな選挙がないタイミン
グで参加を表明できれば、交渉に参加しても劇的な影響は発生しない。交渉参加
を延期すればするほど選挙が近づき、決断は下しにくくなる▽落としどころ
・実際の交渉参加は12年3月以降。「交渉参加すべきでない」との結論に至れ
ば参加を取り消せば良い。(取り消しは民主)党が提言し、政府は「重く受け止
める」とすべきだ
・参加表明の際には「TPP交渉の最大の受益者は農業」としっかり言うべき
だ。交渉参加は農業強化策に政府が明確にコミットすることの表明。予算も付け
ていくことになる。
(筆者は茨城県行方市在住・農業者)
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≪連載≫
■海外論潮短評(51) 初岡 昌一郎
〜アメリカの終わりか ― 不平等と社会的衰退〜
■Voice of Okinawa(26) 吉田 健正
〜八重山に育鵬社の公民教科書〜
■宗教・民族から見た同時代世界 荒木 重雄
〜エジプトの国家再建で問われる宗教間融和〜
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≪連載≫
■ 海外論潮短評(51) 初岡 昌一郎
―アメリカの終わりか ― 不平等と社会的衰退―
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『フォーリン・アフェアーズ』誌最新号(2011年11/12月号)は、表紙
に「アメリカの終わりか」という大見出しを掲げている。内政と外交を考察する
2本の主要論文を収録しているが、前者をここで紹介する。筆者のジョージ・
パーカーは、現代のアメリカで代表的ジャーナリストの一人。政治、国際、社
会、文化の広い分野において記事、論評、分析を所属する高級週刊誌『ニュー
ヨーカー』を始め、『ニューヨーク・タイムズ』、『ハーパース・マガジン』、
『ネーション』などリベラル系紙誌に精力的に発表している。
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◆破られた「アメリカの約束」と社会経済的なバランス ― 両極化する政治
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過去30年を振り返って見ると、少なくとも高等教育を受けた人々と社会階層
上位20%にとって、生活は表面的に大いに向上した。しかし、社会経済構造を
掘り下げてみると、健全な民主的社会を支える諸制度が腐朽状態にあり、崩落し
ている。あらゆる情報を容易に入手できるのに、最も根本的な諸問題は未解決の
ままにいつも放置されている。気候変動、所得不平等、賃金の低迷、教育水準の
低下、インフラの劣化、報道レベルの劣化などの改善には進展が見られない。
技術革新は目覚しいのに、進歩が全般的には見られない。昨年、ウオール・ス
トリートの会社が、シカゴ商品取引所とニューヨーク証券取引所を繋ぐ光ファイ
バー回線敷設のために、1200キロの側溝が農場や山河を横断して掘削され
た。このインフラ建設には3億ドルが投下され、高速・高容量の通信が可能と
なった。しかし、シカゴとニューヨーク間の旅客列車は1950年代よりもほと
んど変わらない速度で走っている。しかも、少なくとも政治的に見る限り、わが
国は高速鉄道建設の能力を持っていない。
iホーンはグレードアップできるのに、道路や橋梁が修理できない。ブロード
バンドを発明したが、国民にそれを普及することができない。iパッドで300
のテレビチャンネルを見うるが、過去20年に20の新聞社が全ての海外支局を
閉鎖した。タッチ・スクリーン方式の投票機械が装備されているものの、昨年は
有権者の僅か40%しか投票していない。200年以上前の市民戦争以来のいか
なる時代よりも、現在は政治が両極化している。
今日、マッカーシー時代の個人攻撃や、1960年代の街頭行動に類するもの
は見あたらない。しかし、当時は政治、ビジネス、メディアにおいて、とりまと
める能力のある制度的組織的な勢力が存在していた。それはエスタブリッシュメ
ントと呼ばれていたが、それが最早存在しない。根本的な諸問題を実際的に解決
する能力を世界は期待して、アメリカの俗物性や高慢さを許容してきたのだが、
いまやその様なことは不可能に見える。
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◆不文律としての国民的契約 ― 社会的コストの富裕層による負担
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1978年頃からアメリカは劇的に変化した。高インフレ、高失業、石油価格
高騰により、ペシミズムが広がった。衰退感に反応して、1930−40年代に
構築された社会的な諸制度に人々が距離を置くようになった。それらの制度は
「混合経済」と呼ばれることもあったが、「中産階級民主主義」でもある。それ
は、労使間の、そしてエリートと大衆の間の成文化されない社会契約であった。
これらの制度が第二次大戦後の経済成長の成果を歴史上かつてないほど広く配
分し、繁栄を国民が共有するのを保障した。1970年代には、企業経営者は企
業従業員の最低賃金の約40倍を得ていた。ところが2007年には、それが
400倍になっていた。労働法と政府の政策は労使のパワーバランスを均等に保
ち、高賃金と経済的刺激の良好な連関をもたらした。税制は私的に蓄積しうる富
の量を制限し、世襲の富豪が層として形成されるのを防止していた。
いまや5年毎に発生しているバブルだが、かつては公的規制機関がそれを阻止
できるほど強力であった。大恐慌以後レーガン時代に至るまでは、体制的な金融
危機が一度もなかった。銀行業は安定しており、退屈なビジネスであった。
当時のアメリカのエリートたちは、今日ではほとんど見られなくなった責任あ
る役割を果たしていた。彼らは国の制度と利益の擁護者であることを自任してい
た。当時の銀行、大企業、大学、法律事務所、財団、マスメディアの指導者たち
は、今日の指導者ように腐敗しておらず、それほど強欲でもなかった。
彼らは利害衝突を超えて国の統一を希求していた。今日健康保険制度と金融改
革に激しく反対してアメリカ商工会議所が闘っている様に、当時の実業界指導者
たちはニューディールに反対して闘ったが、後には社会保障と労働組合を容認す
るに至った。
戦後改革は多くの不公正を残したが、特に黒人や女性には冷たかった。しか
し、その当時は、不公正を是正する道が開かれていた。強力な政府、開明的な実
業界、活発な労働運動が公民権運動の砦であった。
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◆組織化された金融界の登場
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こうした社会的合意を壊す二つの出来事があった。最初は1960年代のこと
である。良く知られている若者の反乱とそれに対する強烈なバックラッシュが、
アメリカ人のモラルとマナーを永続的に変えてしまった。保守的な論客は、60
年代と70年代の社会的革命が80年代の経済的変容に道を開いたとみている。
1933年から1966年までの約30年間に、消費者、労働者、投資家を保
護するために連邦政府は11の規制機関を創出した。1970年から75年の5
年間に、環境保護庁、職業安全衛生局、消費製品安全委員会をはじめとする12
機関がさらに追加された。これらを解体するする規制緩和が、レーガン以後の共
和党政権によって開始された。
第二の出来事は、スタッグフレーションとオイルショックによってもたらされ
た、1970年代の経済停滞である。それがアメリカ人の収入を引き下げ、ベト
ナム戦争、ウオーターゲート、1960年代の混乱で弱められた政府への信頼を
さらに低下させた。それが財界指導者の警戒感を呼び起こし、レーチェル・カー
ルソンやラルフ・ネーダーなどの登場が、資本主義自体に対する攻撃とみる彼ら
の危機感を強めた。
彼らは「ビジネス・ラウンドテーブル」やヘリテージ財団などのロビー・グ
ループやシンクタンクを組織し、まもなくブルックリン研究所などのコンセンサ
ス追求派を圧倒した。
1971年には、ワシントンで登録されていたビジネス・ロビーは145で
あったが、1982年には2,445団体と急増していた。1974年には、登
録された政治活動委員会は600強で、1250万ドルを集めていた。1982
年には3,371団体となり、8300万ドルを集めた。
1974年の中間選挙には7700万ドルが支出されたが、1982年には3
億4300万ドルが使われた。これら全てのカネが財界から出されたものでない
としても、その圧倒的部分を占めた。そして、その見返りは十分にあった。
組織化された財界と保守派の運動が1978年以降活発化し、その頃から最富
裕層に所得の集中が進行した。この傾向は、経済の好不況に拘わらず、また大統
領が共和党か民主党にかかわらず過去30年間続いた。民主党も合法的な賄賂を
ウオール・ストリートに仰ぐようになっていた。民主党議員の中には、共和党と
共に投票行動で完全に財界に追随するものが少なくない。当時の共和党領袖、
ボッブ・ドール上院議員は「貧者の献金はないからね」と言い放っていた。
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◆虚構にされたアメリカン・ドリーム
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不平等がその他のあらゆる悪弊の根源にある。無臭ガスのようにアメリカ社会
の隅々まで不平等がしみわたり、民主主義を掘り崩している。しかし、その根源
を発見し、元から閉めるのは不可能にみえる。多年に亘って、政治家たちと御用
学者は不平等の存在を覆い隠そうとしてきた。しかし、証拠が最早明々白々と
なっている。
1979年から2006年の間に、アメリカの中産階級の課税後所得は23%
上昇した。貧困層の所得は僅か11%の増加であった。他方、最上位の1%富裕
層の所得は256%も急上昇した。国民所得における彼らのシェアは3倍とな
り、実に23%に達した。
この不平等はグローバルな競争、安い中国製品の流入、技術革新などの基本的
なシフトの結果であり、不可避的なものであると論じる人たちがいる。それらの
要因が作用しているとしても、決定的なものではない。ヨーロッパでも同じ変化
が生じているが、不平等はアメリカのように拡大していない。決定的なファク
ターは、政治と公共政策、税制、支出の優先順位、労働法制、規制、選挙資金
ルールである。問題の根源は指導者と制度にある。
公共政策以上に根本的な問題は、アメリカのエリートたちのモラルと姿勢の長
期的な変容である。1978年以前でも、40%の労働力を削減しながら、経営
者が何百万ドルのボーナスを自分に出すことは違法ではなかった。しかし、その
ような恥ずべき強欲を発揮し、ボディガードに囲まれて行動しなければならない
ような経営者は、当時いなかった。今日では、下々が生活苦に悩んでいるのに、
トップ指導者がグロテスクなまでの報酬を受け取る記事が新聞に溢れている。
不平等拡大のこのような傾向が過去30年以上継続していることは、この悪循
環が通常の政治的手段で破れないことを示している。上層部少数者の手中にもっ
と多くの富が蓄積され、その影響力が拡大し、コネのあるものが優位に立つこと
で、彼らとその同盟者が社会的な対価を支払うことなく、拘束を逃れるのを容易
にしている。戦争も、技術も、不況も、歴史的な選挙結果でさえも、このプロセ
スをスローダウンしていないように見える。
不平等が、万人にとっての機会均等というアメリカの公約を虚仮にし続けてい
る。不平等が逆立ちした経済を生み出し、カネの有り余るエリートたちは投機に
走る。中産階級は当然あってしかるべきものを買うためにローンを組み、債務に
追われている。これが、金融危機と大不況の一因である。不平等は社会を階級分
裂に追い込み、人々を出生状況によって階層的に閉じ込めてしまう。
これはアメリカン・ドリームの放棄である。不平等が、学校、住居地、職場、
病院、乗り物、食べもの、健康状態の全てにおいて人々を分け隔てている。もの
の見方、子どもたちの将来、そして死に方さえも不平等によって分断されている。
不平等が他人の人生を思いやることさえも困難にしている。1400万人以上
の人々が、多かれ少なかれ、常に失業している状況がこうして生まれる。不平等
は市民仲間の信頼感を失わせ、世の中をインチキ・ゲームとして斜に見させる。
不平等が、フラストレーションのターゲットとして移民と外国に怒りを向けるよ
う挑発している。
アメリカのエリートたちと歴代政府が不平等の報酬を手にいれ、改革を目指す
ものに対して不信を煽っている。不平等が、大きな集団的な諸問題にたいする大
胆な解決を考える意思を奪い取っている。これの問題は、最早、集団的な問題と
みなされなくなっている様に見える。不平等が民主主義を揺るがしている。
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●●コメント●●
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エスタブリッシュメントの良識的意見を代表すると見られている『フォーリ
ン・アフェアーズ』誌のトップに掲載されたこの論文は、最近のウオール街包囲
デモの背景をよく解説している。問題は根深く、大衆的抗議は政治的な解決を求
める広範な運動の口火になるかもしれない。
ロンドン『エコノミスト』11月5日号は、「消えゆくアメリカ中産階級」と
いう論説を巻頭に載せ、中産階級の不満が来年の大統領選挙を左右すると見てい
る。この論説によると、国民の4分の3はアメリカが間違った方向に進んでいる
と感じている。オバマ政権を容認するものは45%だが、共和党優位の議会を肯
定するものは9%に過ぎない。しかし、メディアは共和党大統領右派候補の連邦
税全廃や「小さな政府」公約に焦点を当てて報道している。
不平等の拡大、年金基金の危機、基礎教育の崩壊、失業の長期化などは新しい
ものではないが、オバマ政権は積極的な政策を展開できず、受身に回っている。
これが国民の失望と閉塞感を高めている。アメリカでもかつて革新派の第三政党
がかなりの影響力を持った時代があったが、疎外された多数派を代表する政党が
アメリカに存在しないことが問題とされることになりうるだろう、とエコノミス
ト誌は予言している。
ここに紹介した不平等は、日本でも過去30年間に深く進行している。円高の
ために日常の必需品、特に食糧価格が安定しているために表面化していないが、
円安に転じて食糧価格が高騰すれば、社会状況は一変するであろう。不平等の拡
大を促進してきたアメリカン・ルールを日本にも導入するTPP協定への参加とい
う、政治的判断が批判的に問われているのは当然である。
(筆者はソシアルアジア研究会代表)
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≪連載≫
■ Voice of Okinawa(26) 吉田 健正
〜八重山に育鵬社の公民教科書〜
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◆県は絶対「ノー」、国は絶対「イエス」
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本題である育鵬社の公民教科書に入る前に、普天間基地の辺野古移設をめぐる
「ねじれ」を取り上げよう。本文の最後に、沖縄靖国訴訟について簡単にまとめた。
2011年9月、沖縄から仲井真知事、東京から玄場外相と野田首相が相次いで米
国の首都ワシントンを訪問したのに続いて、10月には川端沖縄担当相、北沢前防
衛相(現民主党副代表)、玄場外相、一川現防衛相、斉藤官房副長官が次々と
「沖縄詣で」を重ねた。これにパネット国防長官の来日が加わって、改めて「沖
縄問題」のねじれ状況を浮き彫りにした。
仲井真知事の主張は、「普天間基地は県外に移して下さい」「沖縄では辺野古
移設を受け容れられる状況ではないので、他府県で探した方が(解決は)早いで
すよ」。それに対して。閣僚たちの意見はまるで判を押したように、「日米同盟
は日米関係の基軸」「2006年の日米合意に回帰するのは心苦しいが、(辺野古移
設のために)沖縄県民の理解をお願いしたい」。
10月28日の所信表明で、野田氏は移設問題について「(2006年の)日米同盟を
踏まえつつ、沖縄の負担軽減を図ることが、この内閣の基本的な姿勢です」と繰
り返した。顔は米国にしか向いておらず、沖縄県民の反対の声はまるで無きが如
しである。
「辺野古移設進展→普天間基地閉鎖→一部在沖海兵隊のグアム移転→嘉手納以南
の軍事施設の返還」という「パッケージ合意」に基づいて沖縄の「負担軽減」を
持ち出す閣僚に、沖縄側から「危険な普天間基地の閉鎖を最優先すべきだ。なぜ
パッケージにこだわるのか」、とか「地元石川県にも基地があるので、沖縄県民
の心情は理解できる」という一川防衛相に対して「国内法が適用される小松自衛
隊基地と適用されない米軍基地をごっちゃにするのはいかがなものか」という批
判もあった。
野田首相らは、辺野古移設より「パッケージ」を実現することが沖縄の「負担
軽減」になると論じるが、「負担軽減」要求に応えるつもりがあれば、ベトナム
戦争時に活用されていたものの、現在ではほぼ遊休化している嘉手納以南のキャ
ンプ瑞慶覧(ズケラン)、キャンプ桑江、牧港補給地区、那覇港湾施設の返還
は、普天間基地の移設と「パッケージ」にする必要はまったくない。
東京で辺野古移設のため沖縄県民に「踏まれても蹴られても(説得する)」と
語った玄場外相、沖縄県知事に「どんな困難があってもやりぬく」と語ったとい
う北沢前防衛相の発言は「県民に理解を求める」という政権や党の立場とどう結
びつくのだろうか。安保見直しや対等な対米関係をマニフェストに掲げて政権を
獲得した民主党の裏切りである。
玄場外相らの「沖縄=地勢的優越論」は、ロシアを脅威視する冷戦時代の考え
方を引きずったもので、無線操作無人機、100機近い攻撃機を搭載した原子力空
母引率の「海上基地」、ミサイル迎撃ミサイルが活動する今、これはかなり時代
遅れだろう。それでも中国や北朝鮮に近いところに抑止基地が必要なら、九州、
中国地方、北陸、関東の方が、日本防衛には適している。
日米安全保障協議委員会(SCC)は2011年6月21日、「西太平洋において米軍が
地理的に分散し、運用面での抗堪性があり、かつ政治的に持続可能な態勢を実現
するためのより広範な戦略の一部として、第3海兵機動展開部隊の要員約8000人
及びその家族約9000人を沖縄からグアムに移転するとのコミットメントを再確認
した」(防衛省)。 つまり、日米両政府とも、沖縄の地理的位置にこだわって
いないのである。
野田首相を初めとする閣僚たちは、米国の意向(脅し?)にしたがって辺野古
移設を急ぐべく、環境アスセメントの結果を今年末までに県に届けると言ってい
るので、県知事がアセスメント報告を受け容れてジュゴンの棲む辺野古沖の埋め
立て工事を許可しなければ、特別措置法によって国が代理署名して工事に着手す
る可能性が強い。沖縄県民の「怒」は激しくなり、辺野古移設はさらに宙に浮く
だろう。普天間海兵隊基地を嘉手納空軍基地に統合するという実現性もうすい。
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◆◆新教育基本法に沿った「国定」教科書◆◆
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これに、地区の85%が基地にとられている嘉手納町では第三次米軍機飛行差し
止め・騒音反対訴訟が始まり(米軍機の飛行差し止めについては、日本の憲法・
法律は米軍の基地運用には適用されないという最高裁判決があるので、門前払い
になるだろう)、地域内に日中領土問題で騒がれた魚釣島を擁し、離島ゆえの止
まらない過疎化を「緊張の海」監視のための自衛隊招聘によって何とか食い止め
て「活性化」を図ろうとしている日本最南端・最西端の八重山では、中学校「公
民」教科書の選択・採用をめぐって何か月にもわたって紛糾している問題がある。
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●沖縄・八重山に関する記述
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今回は、県教育庁や文部科学省まで巻き込んで混乱している「手続き」上の問
題ではなく、採択の可否をめぐって焦点となった育鵬社(同社によれば、扶桑社
の教科書事業を継承する出版社)の『新しいみんなの公民』の内容を、沖縄の視
点から検討してみたい。
八重山の3市町村(石垣市、与那国町、竹富町)のうち、石垣と与那国の教育
委員会が育鵬社版を選んだのに対して、竹富の委員会が東京書籍版を採択した。
現場教員や世論の高まりもあり、紆余曲折の末、3市町は全教育員委員協議会で
育鵬社版の採択を決め、県教育庁もそれを承認したが、文部科学省がそれに異議
をはさんで、問題は振り出しに戻ってさらに紛糾。
結果的に、文科省は3市町が11月末までに一本化できなければ、石垣と与那国
には教科書を無償、竹富だけは有償にするとの方針を決めた。有償となれば、義
務教育は無償と定めた憲法26条や教科書無償措置法に違反する可能性がある。11
月に入ると、石垣市内の小学生の保護者2人らが、有鵬社版教科書の採択を強制
的に「誘導」したとされる石垣市教育委員会を相手に、3市町全教育委員協議に
よる多数決議決の有効性や石垣市での東京書籍版の無償給付の確認を求める訴え
を那覇地裁に起こした。
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●「自虐史観」から解放し、「我が国と郷土を愛する」
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市販本の帯には、「確かめ合う家族・地域・国民の絆 世界とのつながり」と
書かれ、推薦者として、屋山太郎(政治評論家)、岡崎久彦(元外交官)、渡部
昇一(上智大学名誉教授)、鍵山秀三郎(日本を美しくする会相談役)、三浦朱
門(藝術院院長)、千玄室(茶道家元)、櫻井よし子(ジャーナリスト)、渡辺
利夫(拓殖大学学長)、八木秀次(高崎経済大学教授)の名前と顔写真が載って
いる。
裏表紙の推薦の言葉には、「光輝ある父祖の偉業を否定する自虐的な歴史教科
書と、国家意識を欠如し家族解体を推進する公民教科書に代る……育鵬社教科書こ
そ国家再生の礎となろう」、「子供たちを自虐史観の桎梏から解放する教育正常
化への歴史的な意義……」「この教科書は、偉人の実績をふんだんに取り入れ、子
供たちによりよい価値を形成させます」といった言葉が並ぶ。
文部省が昭和12年に編纂・発行(昭和14年に第3版)した『國體の本義』で、
明治以降に西洋近代主義がもたらした「個人主義」の「欠陥」(個人間の対立、
階級間の対立、国家生活や社会生活における諸問題)を是正するため、「国家の
大本としての不易の國體と、古今に一貫し中外に施して悖(もと)らざる皇國の
道」によって新たな日本を生成・発展させ、天壌無窮の皇運を扶養」しなければ
ならないと説いたことを想起させる、懐古主義である。それでいて、対米従属外
交には異議を挟まないというのは、それこそ日本人の自立と誇りを放棄して自虐
的だと言えよう。
推薦者の八木秀次教授によれば、市販本は、1947年発布の旧法を「個人の尊厳
を重んじ」に加えて、「人格の完成」を目指すための「公共の精神を尊び……伝統
を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進する」「豊かな情操と道徳心を
培う」「生命を尊び、自然を大切にする態度を養う」「伝統と文化を尊重し、そ
れらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する……態度を養う」といった理念を新た
に規定した2006(平成18)年の教育基本法に基づく初の公民教科書。
「『個人』に偏重し、家族や共同体、国家を軽視」し、「それらに伴う伝統や
文化道徳をないがしろにした戦後教育に根本的な転換をもとめるもの」だとい
う。育鵬社の「公民」は、国家の新たな方針に沿って編集した、国家と理念的に
一致した教科書(いわば擬似「国定」教科書)いうことになる。文部科学省が強
く支持するワケである。ただし、内容的には改正教育基本法に沿うが、いくつか
の点については触れない、あるいはぼかす、という手法をとっている。
大日本帝国憲法を天皇の「大御宝(おおみたから)」と西洋の権利思想を「調
和」させた近代的人権尊重憲法であったと称揚しつつ、「帝国議会」が戦後の
「新憲法」としてマッカーサーに提出したものの拒否された大日本帝国憲法の改
正案の内容を示さず、GH0の反発を招いたという理由を示さない、日本は新憲法
で「戦争(侵略戦争)を放棄し」と定めたというが、「侵略戦争」についての説
明はなく、侵略戦争や遺族の強制的な合祀とからんで問題となった靖国神社も宮
司のあとについてくる小泉首相らが写っている写真の下に「首相と閣僚の……参拝
と憲法が定める政教分離とのかかわりについては議論があります」と書くだけ
で、「議論」の内容には触れていない。
また「職業や性別、年齢」による「不合理な差別」は「絶対にゆるされること
ではありません」と書きつつ、「行きすぎた平等意識はかえって社会を混乱さ
せ、個性をうばってしまう結果になることもあります」と説明し、女性の政治。
経済分野への進出などを指標とする日本の「男女格差」(先進国の中では最低水
準)や在日アジア・中東・アフリカ系住民に対する差別には触れない、皇族の基
本的人権にも言及しないなど、多くの矛盾を含んでいるが、ここでは沖縄に関係
の深い日米安保と日米同盟の部分を見てみよう。
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●中国・北朝鮮の核兵器は脅威、米国の攻撃機や核兵器は?
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同書によれば、「世界に核兵器やその開発技術をひそかに売り買いする闇市場
があり、核開発技術をもたない国でも核兵器を入手できるため、テロへの使用も
懸念されます。日本周辺でも、中国の核ミサイル配備や北朝鮮の核兵器開発など
が軍事的緊張を高めています。」
世界で初めて核兵器を開発し、広島・長崎への投下のあと、韓国、台湾、沖縄
などの太平洋地域に核兵器を配備し、さらには北朝鮮、中国、ベトナムなどに対
する核攻撃計画を立て、イスラエルの核開発を容認したのは、どこの国なのかに
は、触れていない。
米国が中国周辺に核配備をしたことには言及せず、中国や北朝鮮がそれに対抗
するために行った核開発・配備のみを批判するのである。単独行動主義に走る米
国が2002年にロシアとの弾道弾迎撃ミサイル制限条約から脱退したことにも触れ
ていない。沖縄からほんとうに核兵器が撤去されたかどうか、その疑問も発して
いない。
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●憲法と日米安保:どちらが日本の「最高法規」?
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日米安全保障条約については、 育鵬社の教科書は、こう述べている。戦後日
本の平和は、「自衛隊の存在とともに」、1951年に「サンフランシスコ平和条約
の調印と同時に」日米間で締結された安全保障条約の抑止力に負うところも大き
いといえます。
またこの条約は、日本だけでなく東アジア地域の平和と安全の維持にも、大き
な役割を果たしています。」なぜ旧敵国(連合側諸国)との平和条約の調印と日
米間の単独安保条約の締結が同時だったのか、説明はない。1946年11月には国民
主権、平和主義、基本的人権の尊重を盛り込んだ日本国憲法が公布(翌年5月に
施行)された。
国民参加なしに公布された憲法に、なぜ「日本国の象徴、日本国民統合の象
徴」という天皇の地位が「日本国民の総意に基づく」と定められたのか。なぜ明
らかに憲法の平和主義に反する安保条約が、連合国『=米国』占領下で締結され
たのか。説明はない。なお、天皇については、オバマ大統領が深々と頭を下げ
て、うつむいたまま天皇と握手する、米国で批判を受けた写真が載っている。
ちなみに、日本国憲法の第98条は、この憲法は国の最高法規であって、その条
規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、
その効力を有しない。 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これ
を誠実に遵守することを必要とする」と定めている。
ところが、日米安保(やそれに基づく日米地位協定)そして憲法の番人たる最
高裁判所は、そのことを否定してきた。日本はその安全保障と経済的発展を安保
によって守ってきた米国に基地を提供し、在日米軍の出撃・危険性・騒音を含む
活動・運用を保証し、基地撤去に際して米国は原状復帰を免責され、米軍人・軍
属・家族は法的に特別扱いされる。要するに、米軍基地もその運用も在日米軍も
治外法権という植民地状態が、今日まで続いているのだ。
日本人にとってきわめて重要な、日本国憲法と日米安保条約およびそれに基づ
く日米地位協定はどちらが上位なのか、すなわち、独立国・日本の憲法は日米安
保条約に対して拘束力をもっているか、それについても説明はない。同教科書が
述べるように「国家は、領域・国民・主権の三つの要素」からなり、「国際社会
は主権(ある国が他の国から支配や干渉をされない独立の権利や、他の国々と対
等である権利)をもつ国々(主権国家)によって構成」されているとすれば、日
本国憲法は当然、日米安保条約や在日米軍および軍人・軍属・家族にも適用され
るべきだろう。実際はどうなのか。
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●日本は米国の一部?
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「主権」に関する項では、北朝鮮による日本人拉致と中国潜水艦による日本領
海の侵犯を大きく取り上げている。
しかし、在日米軍については、安保条約第6条により「日本国の安全に寄与し、
並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国
は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許
される」その「75%が沖縄県に集中している」と注書きで説明し(欄外のリスト
には佐世保基地、岩国基地、横田基地、横須賀基地、座間基地、三沢基地のほ
か、嘉手納基地とキャンプ・ハンセンが載っている)、普天間基地の写真も載せ
ているが、これらの米軍基地が中国や北朝鮮の脅威になっているとは書かれてい
ない。米国も日本も、あくまで「防衛」のための基地配備である。
皮肉なことに、教科書と市販本の表紙の日本列島の航空写真には、沖縄本島や
八重山諸島は映っておらず、八重山諸島はおろか、沖縄県の歴史、文化、社会に
関する記述も皆無に近い。日本の領土を示す地図(157ページ)にも、北海道・
本州・四国・九州のほか、択捉島、竹島、沖ノ鳥島、南鳥島、尖閣諸島、与那国
島は表記されているものの、沖縄本島や尖閣・与那国を除く八重山諸島は描かれ
ていない。
しかも、竹島、北方領土、尖閣列島については、領土問題として外務省ウェブ
サイトの記事を掲載しているのに、沖縄本島については陸地の20%近くが米軍占
有基地になっているほか、一部の沿岸や海域と空域まで米軍が訓練のため管理し
ている事実は紹介していない。
日本の空や海を自由に動き回る米軍機や米海軍の空母や潜水艦、学校や病院や
住宅の真上を昼夜の別なく轟音を立てて旋回飛行する攻撃ヘリや輸送ヘリ、航空
機や部品の墜落、沖縄を「前線基地」にして嘉手納やホワイトビーチから武装兵
と弾薬を積んで戦場に出撃する航空機や戦艦、絶えることのない米兵による婦女
暴行、殺人傷害、窃盗、住宅侵入、運転事故、「公務中」を理由に日本の捜査権
や裁判権の適用から除外される事件や事故……。
北朝鮮による拉致事件や日本近海での不審船航行事件、尖閣列島近海での中国
船航行事件などが大きく取り上げられるのと対照的に、沖縄での「同盟国」によ
るこれらの問題はほぼ全面的に無視(容認?)されている。
「日本には他国との真の友好関係を築く努力とともに、主権国家としての相応
の姿勢とねばり強い交渉が求められています。」その言やよし。しかし、教科書
は中国 ロシア、北朝鮮の脅威だけをとりあげて、日米同盟がもたらしている諸
問題、「主権国家」としてどういう対米関係を構築すべきかには言及していない。
日本は、まるで米国の一部(領土)だ。いや、米国の一部なら、住民の安全や
人権はもっと保護されていただろう。
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◆◆司法の「信教の自由」◆◆
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スペースの都合で、数行にとどめたいが、福岡高裁那覇支部の橋本良成裁判長
は9月6日、沖縄戦で死んだ肉親を靖国神社に無断で合祀されたとして合祀取り消
しと賠償を求めた控訴審判で、一審判決に続き遺族の主張を全面的に退け、請求
を棄却した。
その根拠が「信教の自由」である。 壕内で死んだ3歳児や日本兵に壕から追
い出されて米軍に射撃された女性まで戦争協力者(準軍属)として「英霊」扱い
を受けて合祀を強制されることに異議を唱えた遺族の主張に対して、裁判所は遺
族の「信教の自由」」より靖国神社の「信教の自由」と遺族の意向と無関係に
「お国のための戦没者」を「神」として靖国に祀るという自由を優先する判決を
下したのである。
はて、憲法で保障されているのは、個人のではなく、靖国神社の「信教の自
由」だったのでしょうか。
興味のある方は、以下のサイトを参照してください。
▼「戦没した沖縄県民がなぜ靖国に合祀されるのか シジフォス/ウェブリブログ」
http://53317837.at.webry.info/201109/article_19.html
▼「沖縄靖国合祀取り消し訴訟判決 | Afternoon Cafe」
http://akiharahaduki.blog31.fc2.com/blog-entry-522.html
▼「靖国問題 - 海鳴りの島から」
http://blog.goo.ne.jp/awamori777/c/d2289fbac6225bb0bb493829dee9a82c
▼「読書室 / 沖縄から靖国を問う、金城実『「命どぅ宝」歪めた靖国思想』(宇多
出版企画)」 http://www.mdsweb.jp/doc/956/0956_08b.html
(筆者は沖縄在住・元桜美林大学教授)
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≪連載≫
■宗教・民族から見た同時代世界 荒木 重雄
〜エジプトの国家再建で問われる宗教間融和〜
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「アラブの春」から新たな国家体制づくりへとすすむエジプト。その首都カイ
ロで、10月9日、「信教の自由」の保障を求めるキリスト教の一派コプト教徒の
デモと軍治安部隊が衝突し、25人が死亡、300人以上が負傷する事件が起こった。
衝突の発端は詳らかでないが、軍が銃撃を浴びせ、数人は軍の車両に轢き殺さ
れたという。このデモは、前月30日、南部アスワンで起きたイスラム教徒による
コプト教会襲撃に抗議するものであった。
日本の報道では一言で「教会襲撃」と伝えられたこの事件だが、真相はなかな
か複雑である。コプト教徒が所有する「ゲストハウス」の屋上のドームに十字架
を立てたところ、数百人のイスラム教徒の群衆が押しかけ、暴徒化した群衆は十
字架を引きおろし建物に火を放った。さらに、許可なく施設を教会に改造しよう
としたとして管理者を告発した。
エジプトでは法律上、信教の自由が保障され、イスラム教徒とコプト教徒の間
に差別はないたてまえであるが、実際には、コプト教徒による教会の建設にはイ
スラム教徒のモスク建設にはない複雑な条件がつけられ、事実上、困難にしてい
る。そこで、教会建設を断念したコプト教徒は別の施設の建築申請で許可をと
り、完成後、教会に転用している場合が少なくなく、これがしばしば地域に騒動
をもたらしている。9月のアスワンの事件もその一つである。
では、コプト教とはそもそもいかなる宗教なのか。
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◇◇キリスト教界の独立派
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「コプト」という言葉はギリシア語でエジプトを意味する「アイギュプトス」に
由来する。これをアラブ人は「キプト」と省略し、のちのヨーロッパ人がさらに
「コプト」と呼ぶようになった。「コプト教」とはすなわち「エジプトのキリス
ト教」の謂である。
伝承ではエジプトへのキリスト教の布教は、聖書の『マルコ福音書』の記者とし
て著名なマルコが、紀元42年頃、アレクサンドリアに教会を設立したことにはじ
まるとされる。
アレクサンドリア学派の神学ではキリストを神としてのみ捉える(単性論)傾
向にあったが、451年に開かれたカルケドン公会議がキリストは神性と人性の完
全な結合と定めて単性論を異端としたことから、これに反発したエジプトの教会
は東方正教会(ギリシア正教)から離脱し、ローマカトリックにも東方正教会に
も属さない独自の道を歩むこととなった。これがコプト教である。古代エジプト
語につながるコプト語(表記はギリシア文字)を典礼語とし、「神の母」マリア
への厚い崇敬が特徴である。
現在、このコプト系キリスト教徒はエジプトを中心にエチオピア、シリア、ア
ルメニア、米国、豪州などで5千万人といわれる。ほとんどがイスラム教徒のエ
ジプトでは人口の約1割を占め、830万人ほどが住む。元国連事務総長のブトロ
ス・ガリ氏もコプト教徒である。
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◇◇高まる宗教間対立
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イスラム教徒とコプト教徒は、法律上、平等とされ、これを後押しするように
2007年、エジプトのイスラム指導者は「イスラム教徒は自由に改宗することがで
きる」むねのファトワ(宗教令)を出している。しかし、先の教会建設の例と同
様、ことがさほど単純ではないことは、イスラムからコプトに改宗を志したある
人物(元警察官)のエピソードにも示されている。
改宗を決意した彼は教会を訪れるが、秘密警察のスパイかと疑われ、複数の教
会で洗礼を断られる。ようやく入信は叶ったが、エジプトでは常時携行を義務づ
けられている身分証明書の宗教欄を「イスラム教徒」から「キリスト教徒」に変
更するためには高等行政裁判所に申請しなければならない。じつは、ここで却下
されることが多いのだが、彼は幸運にも認可を得る。ところが、「名誉を汚し
た」背教者として親族の怒りを買い、命を狙われるはめに遭うのである。
伝統的にはイスラム支配下では、異教徒はジズヤとよばれる一定の税を払えば
生命、財産、名誉、信仰が保障される仕組みがあったこともあり、宗教間対立は
ほとんどなかったといわれる。そうした仕組みが否定される近代化の過程で逆に
対立が広がり、とりわけ2001年の9.11につづく対テロ戦争以降、エジプトでもイ
スラム教徒とコプト教徒の関係が緊張を帯び、前者による後者への襲撃事件が頻
発するようになった。
今年に入ってからの主な事件だけを挙げてみても、1月1日未明、北部アレクサ
ンドリアの教会前で爆弾テロが起こり、新年ミサに集まったコプト教徒23人が犠
牲になった。これは昨年1月6日、南部ルクソールの教会付近でコプト暦のクリス
マスイブ礼拝に集まったコプト教徒が銃撃され6人が死亡したのにつづく新年
早々の惨劇である。さらに1月11日には中部ミニヤ県で列車内のコプト教徒が銃
撃され、1人が死亡し5人が負傷する事件も起きた。
この1月の事件では当時のムバラク政権は国際テロ組織アルカイダの関与を主
張。一方、ローマ法王ベネディクト16世が中東のキリスト教徒の安全に懸念を示
す発言をしたことに反発して駐バチカン大使を召還するなど、国際的な波紋も広
がった。
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◇◇エジプト民主化の試金石
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やがて2月にはムバラク政権打倒の100万人デモが起こるなど「アラブの春」が
はじまるが、ムバラク政権に批判的ながらも、その後に最大野党ムスリム同胞団
などイスラム勢力が台頭する事態を恐れるコプト教徒は運動に慎重な姿勢をとった。
新政権樹立過程で躍進が見込まれるムスリム同胞団はその新党「自由公正党」
の副代表にコプト教徒を据えるなど懸念払拭に努めているが、宗教間融和の実現
こそはまさにエジプトの真の民主化への試金石となろう。
(筆者は社会環境学会代表)
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■ 【運動資料】TPP問題について 篠原 孝
1)韓国と日本の大きな違い
2)TPPの経済的メリット・デメリット
3)アメリカのしたたかな戦略とオバマの見え見えの打算
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●1)韓国と日本の大きな違い
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◇したたかな韓国、出遅れる日本
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財界、経産省、外務省はなにかにつけて韓国のFTAを絶賛・推奨し、だから
日本はTPPに入らなければいけないと言う。いわゆる「韓国脅威論」である。
何を言っているのか、私は理解に苦しむばかりである。百歩譲って韓国を見本と
するなら、米等重要品目を例外とするEPA・FTAをEUやアメリカと結べば
いいのであって、関税ゼロを前提とするTPPなどは全く方向が違っていること
である。
日本の財界は、韓国の米・EUとのFTA締結という矢継ぎ早の自由貿易への
転換に浮足立っている。EUとの関税 自動車10%、薄型液晶14%は大きいかも
知れないが、それ以前に韓国には追い越されているのだ。2010年にトヨタは欧州
で初めて販売台数で現代に追い抜かれているし、世界最大の市場中国でも現代
(ヒュンダイ)に及ばない。関税をゼロにすればいいというほど単純ではない。
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◇貿易依存度のバカ高い韓国
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それよりも何よりも、日本と韓国の違いは国の大きさである。人口は、日本が
1億2700万人、韓国が4000万人強、約3分の1である。また、韓国のGDPは
10,145億ドルと日本の5分の1強にすぎない。韓国は小さい国内市場だけでは生
きていけず、グローバル化が必要なのだ。そして、国民がある程度その考えを受
け入れていることだ。
次に違うのは輸出依存度が、韓国は43%(GDPに占める輸出入総額は82%)な
のに対し、日本はわずか11%にしか過ぎない。日本より低いのは、アメリカ
(7%)とブラジル(10%)ぐらいしかない。韓国はWTO交渉が停滞する中、
日本やアメリカのように国内市場だけで成長できる国ではないことから、2国間
のFTAに活路を求めたのだ。
日本は加工貿易立国であるといわれてきたが、実は違う。確かに一時は日本の
成長を輸出が支えたこともあったけれども、基本的には団塊の世代を中心とする
内需が支えたのである。これは三種の神器なり、3Cなりを国民がこぞって買
い、内需を拡大することによって、日本の産業界を潤わせてきたことを考えると
一目瞭然である。日本は幸いなことに、大国になり過ぎたのであり、韓国の5倍
のGDP5.5兆ドルの国が輸出拡大を図るとすれば嫌がられるのは当然である。
米議会が米韓FTAは許しても日米FTAをおいそれと認めることはあるま
い。その延長線上で、私は米議会が日本のTPP入りをすんなりと認めるとは思
えない。となると、日本もまたぞろ外需すなわち輸出に頼るのではなく、今度こ
そ内需拡大で日本を活性化していくべきなのだ。それも乗用車とか家電製品と
いった特定の製造業に偏りすぎず、食品産業や木材産業等の地場産業の振興に努
めるとともに、介護、医療、教育といった新しい需要に向けていくしかないのだ。
これらの新しい分野にこそ、新しい雇用の場なのに、TPPに入り、介護や医
療の分野まで外国に開放せんとするのは、愚かとしかいいようがない。
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◇韓国の危険な試み
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韓国は、盧武鉉政権の時の1997年の財政危機を契機に2004年チリとのFTAを
皮切りに、通商国家体制に大きく舵を切った。李明博政権はそれを引き継いで加
速させている。日本と違って人口は4000万ほどで国内市場は限られている。北朝
鮮という危うい隣国を抱えている。そうした中でのやむにやまれない方向転換か
もしれないが、非常に危険な試みであると思う。
EUとのFTAが2011年7月発効、アメリカとのFTA交渉も2007年には米の16品
目を除き、牛肉、豚肉等の重要品目の関税撤廃も受け入れ、合意にこぎ着けてい
る。韓国はかなりアメリカに妥協していて、今後のTPPを占う参考になること
が多い。例えば、郵政の保険関係では、新商品を販売しないと約束し、特区内で
の自由診療拡大営利病院の許可を明文化している。日本が今、何の情報もなく
TPPに入ったら、すぐさま同じ要求を突きつけられ、受け入れざるをえなくな
る可能性が強い。
アメリカは外交交渉においては、本当にしつこい勝手な国である。次々と新た
な要求を出してくる。2009年1月オバマ大統領は「米韓FTAについて見直しが必
要」と発言。韓国は「再交渉はあり得ない」と主張したが、事実上再交渉させら
れた。その結果、韓国産乗用車に対するアメリカの関税撤廃時期の5年先延ば
し、米国産乗用車に対する韓国の安全・環境基準の緩和という妥協を強いられて
いる。日本のTPPに入ればなんとかなるという楽観主義者には、この際限なきア
メリカの要求はどう映るのだろうか。
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◇羨ましく映る韓国をじっくり観察)
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延び延びになっていた米議会の米韓FTA実施法の承認も済み、両国が目指す
2012年1月の発効に一歩近づいた。しかし、一方で、韓国の批准となるとそう楽
観視できない。韓国内には妥協しすぎの政府に対し、野党は反発を強めている。
今まで韓国がどれだけ妥協したか国民には明らかにしていないようだが、やは
り、政治は一寸先もよくわからない。
2011年10月26日のソウル市長選で野党連合が支持した無所属候補朴元淳が当
選、一度は農畜産業の追加補償策などで妥協が成立したが、毒素条項(ISSID)
すなわち投資家が不利益を受けた際には、相手国を訴えることができることに対
し、韓国に不利な「毒まんじゅう」と反発している。やっと危険性に気付き始め
た野党民主党は、FTA問題は4月の総選挙で国民の意見を聞いてから処理すべ
きだ,と越年論議も辞さない構えとなっている。
医療や食品の安全性等について、アメリカの要求を相当のまされたことが明ら
かになれば、激しい韓国の民衆が大騒ぎしてくる可能性もある。BSE牛肉を危険
だとして小・中学生まで参加して100万人デモをする国なのだ。 日本は韓国の
先行をうらやまし気に見ているが、ことはそう簡単に進みそうにない。やっと
TPPの全容に気づいた農業関係者の不安も高まっている。日本は焦ってTPP
交渉に入る前に、韓国がどうなるかじっくりと見極める必要がある。
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◇日本がTPPに現を抜かす間に韓中が接近中?
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TPP推進論者が、二言目にはアジアの成長を取り込む必要があるというが、
TPPは中国も韓国も入っておらず、ASEANの主要国も全く入っていない。ベト
ナムはあまりの中国進出に恐れをなして、かつてあれだけ痛めつけられたアメリ
カにすり寄っているにすぎない。他のASEAN諸国は、胡散臭い目で見ているの
だ。中国はアメリカへの対抗上TPPを無視、韓国は米韓FTAで精一杯で、今更関税
ゼロが原則のTPPなどにかまける余裕はない。
しかし、中韓二ヶ国は北朝鮮をはさんではいるものの隣国に等しい。普通に考
えるならば急接近してもおかしくない。日本は中韓と三ヶ国のFTAについて共
同研究中だが、そんな呑気なことをいっておられないかもしれない。もしも、本
当にアジアの成長を日本に取り込みたいなら、中韓とこそFTAを締結していく
べきなのだ。三ヶ国ともアメリカのように押して押して押しまくり、次々と青天
井の要求をしてくるようなえげつない国ではない。お互いの痛みを分かち合える
国である。
受け身の盲目的TPP入りではなく、前向きに東アジアの仲間造りをしていく
べきなのだ。韓国は、似た構造の日本とのFTAは難しいが、中国となら補完関
係を作れると踏んでいるはずである。日本はむやみやたらにアメリカに追随する
のではなく、近くの隣人を大切にしていくべきなのだ。日本は中国をとるかアメ
リカをとるかの二者択一で、単純にアメリカになびいているようだが、韓国は北
朝鮮もあり、アメリカと同盟関係を維持しながら、中国とも接近をすることは間
違いない。それが大国の狭間にある小国の生きる唯一の道なのだ。
日本も韓国にならい、米中両国と平等につきあっていくべきであろう。
(篠原孝メールマガジン262号より転載)
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●2)TPPの経済的メリット・デメリット
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◇まちまちの関係各省影響計算
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TPPで各省庁の意見が真っ向から対立したが、TPPの影響試算がまちまち
であった。農林水産省は、TPPに参加した場合、農業で4.1兆円、関連食品
産業を合わせると、7.9兆円の損失になり、340万人の雇用が減るという数
字を出した。
それに対して経産省は、不参加の場合は、20年後に輸送機器と家電と機械工
業の大輸出産業でもって、GDPで10.5兆円の減になり、雇用は84.2万
人が減ってしまう計算した。内閣府は、TPPに参加した場合、GDPの増加は
2.4〜3.2兆円、しなければ6〜7000億円の減という見積もりを出して
いた。大きく各省庁の計算が違っている。
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◇経済的メリットが小さすぎて出せなかった経産省
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農林水産省の計算は、内外価格差をもとに単純計算しただけのものだが、経産
省の試算は、輸出比率の減を誇大に見せようとして、本来TPP不参加とすべき
仮定を変えている。まず、仮定のごまかしその1が、TPPだけではメリット
(あるいはデメリット)が小さすぎるので、わざと日本がEUとも中国とも
EPAを締結しなかった場合としている。EUも中国もTPPに無関係なのに、
この2国を入れなかったら数字が大きくならないからだ。
2番目に韓国との差だが、これまた今の米韓FTA、EU韓FTAでは差が小
さすぎるので、わざと中韓FTAが結ばれた場合としている。TPPとFTAの
比較もおかしいが、それは譲るとして、締結した米、EUとのFTAでなく、今
後どうなるかわからない中国とのFTAも締結し、日本は結ばないとして差を大
きくしようとしているのだ。
3番目が、他の2府省が、今現在で計算しているのに、わざと2020年に日
本産品が米国・EU・中国において市場シェアを失うことによる関連産業を含め
た影響を計算して過大にみせている。
これはとりも直さず、TPPのGDPへの影響があまりにも小さいために、上
記の3つの仮定をせざるを得なかったのだろう。それにしても、仮定がすぎる。
経済学者の野口悠紀雄は、TPPによる輸出増はたった0.4%と断じている。
こんな数字など、為替レートの変動ですぐ吹っ飛んでしまうことは度々述べたと
おりである。
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◇具体的メリットなし
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2011年10月24日の経済連携PTで経団連の意見を聞く際に用意された
ペーパーは、はっきりいってお粗末だった。たった1枚で、下半分が農政につい
ての提案だった。肝心のTPPがなぜ経団連にとって必要かということは箇条書
きで抽象的に書かれていただけであった。TPPに参加しないと日本は世界の孤
児になるとか大仰なことを言っているわりには、少しも熱意が感じられなかっ
た。具体的メリットがないのだろう。こんなことで日本社会をぐちゃぐちゃにさ
れてはたまらない。
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◇TPP推進論者の本がない!
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推進論者の論調は、新聞の6段ぐらいのインタビュー記事や社説は見つけて
も、著書がほとんどない。つまりは、一冊の本にするには論理矛盾が多すぎ、ま
た牽強付会にやろうとしてもろくなメリット数値を示せなかったのであり、とて
も書物にできないからであろう。例えば、大胆な金融緩和によってインフレに
し、景気をよくしなければならないといった経済学者、評論家が、明らかにデフ
レを招くと思われるTPPに賛成するとおかしなことになる。
また、TPPに参加するかしないかは、私が繰り返し述べているように、多国
間構造協議をアメリカの圧力で行うものであり、内容が多岐にわたる。あまりに
分野が広く、節度ある学者や評論家はとても適当な推進論をぶてないからだ。
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◇利益は国民に均霑化せず
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メリットとして、一つ上げられるのは、TPPにより輸出企業が儲かった場
合、それが、トリクルダウンして他のところに転化するということ。ところが、
ほとんどそうなっていないのではないか。失われた20年の間も、一時期輸出が
伸びて、輸出企業は相当業績が上がっていたはずである。
例えば、一部上場のトップ30社ぐらいは、それでもって内部留保を相当溜め
込んでいる。輸出企業はぼろもうけしたのだ。しかし、その配当や役員報酬は増
えたけれども、従業員の給与は上がっていない。なおかつ、長期的な投資、研究
開発のような投資には、お金を向けていない。
そして企業合併をくり返し、あるいは余ったお金を外国に投資するなど、日本
の成長にはほとんど寄与していないのではないか。TPPに仮に入ったとしても
また、こういうことを繰り返すことになり、日本国民がメリットを受けるという
ことはそれほどないのではないか。
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◇検証すべきNAFTA(北米自由貿易協定)後のメキシコ
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我々は、ここで過去の自由貿易協定の結果を検証してみる必要がある。地域協
定の一つである北米自由貿易協定(NAFTA)が1994年に成立して17年
経った。これが一つの典型であるが、アメリカ、カナダ、メキシコはどうなった
か。日本のTPP推進派の書物や論壇には一つも登場しない。理由は、少なくと
もメキシコにとっては惨憺たる結果になっているからだ。
アメリカからメキシコへのトウモロコシの輸出は3倍に急増した。アメリカの
農産物の3分の1は輸出されており、国内補助金がそのまま輸出補助金と同じ役
割を果たしている。零細なメキシコ農民はトウモロコシ生産ができなくなり、ア
メリカからメキシコへの大豆、小麦、豚肉、牛肉等の輸出も急増した。
そのため、農地を手放し密入国する者も増え、一旦、米国の多国籍企業の製造
業に雇われたものの更に安価な労働力の国に工場が移転され、リーマン・ショッ
ク時には50万人が職を失っている。
NAFTAは、結局のところ、独占と集中をもたらしただけで、メキシコには
製造業の成長も雇用の拡大もなく、全く逆の結果しか生まなかった。勝者は、メ
キシコ市場を手にしたアメリカの多国籍企業だけだったのだ。
-------------------------------
◇数%の関税引き下げよりも為替変動の影響大
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アメリカはTPPを輸出を倍増する梃子にしようとしているのであって、輸入
を増やすつもりはない。そして輸出先として一番期待が持てるのは、現交渉参加
8カ国ではなく他ならぬ日本なのだ。オバマ大統領は「巨額の貿易黒字のある国
は輸出への不健全な依存をやめ、内需拡大策をとるべきだ」と言っている。
昨今のドル安の放置(?)も、輸出戦略の一環だ。さらに言えば、今や日本
メーカーの自動車などは半分以上(66%)が、アメリカの現地生産で関税は無
関係である。アメリカは高関税のうちに現地工場を作らせ、雇用の拡大を確保
し、その後にドル安にして、輸出攻勢をかけることを考えているに違いない。
-------------------------------
◇景気浮揚にはTPPより財政出動が先
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日本の景気をよくするためには、まず日本のデフレを脱却しなければならな
い。そのためにやるべきことはなにか。TPPで輸出を増大することではない。
TPPで関税ゼロにすると更に安価な輸入が増え、デフレが加速する。
正解は、公共投資の拡大なり、大型減税であり、大規模な量的緩和であり、内
需振興なのだ。それを今日本は増税しようとし、はたまた、TPPで関税をゼロ
にしようとしているのである。どこかネジが曲がっている。
通貨当局日銀と財務当局財務省とが協力し、日銀が国債の買い取り枠を増や
し、同時に政府が財政出動と減税をすれば、日本のデフレを終わらせることがで
きる。そうすればTPPによる輸出に依存しなくて済む日本ができ上がるはずで
ある。経済界はなぜこの声を上げないのだろうか。
日本の経済の活性化には、やはり国内経済の需要を拡大し、成長路線に繋げる
ことであり、対外的に見れば円安にすることである。長期的には、それによって
税が増え、名目GDPも成長し、財政が健全化することになるのではないか。こ
のことを忘れてTPPだけに固執し、日本の社会システムを変え、またまた混乱
させるというのは金融財政政策として賛成できない。
(篠原 孝メールマガジン263号より転載))
────────────────────────────
●3)アメリカのしたたかな戦略とオバマの見え見えの打算
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アメリカは、一旦戦略を打ちたてるとしつこくそれに向かって進む国である。
私は、以下のような大変なことがあったと考えている。
@丸太の製材の関税ゼロが中山間地域の疲弊をもたらしたこと
A余剰小麦のはけ口で、パン給食が導入され、日本の風土と隔絶した食生活が広
まったこと
B金融ビック・バンにより日本金融システムを変えられ貸し渋りが増えたこと
C日米構造協議により大店法が改正され、地方商店街のシャッター通り化を招い
たこと
D年次改善要望書にもられた郵政民営化を受け入れため、郵便局が混乱し、金融
界にも波及が生じていること
-------------------------------
◇TPPでは日本に選択権なし
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TPPの交渉参加で、上記のようなことが国際協定の枠組みの中でじわじわと
押し付けられる突破口になるのは確実である。財界等の推進派は、日本経済の活
性化の突破口などというが、そんなものよりも違う突破口になってしまうのだ。
もちろん、アメリカに学ぶことも多く、日本はそれをいいとこどりしてきた面
もたくさんある。いくら強制させられたとはいえ、一応どれを取り入れるか選択
権があったのだが、TPPに入るとあればいいけど、これはダメと言い出せなく
なり、他の国も皆賛成しているのだからといって、有無を言わせられず押し付け
られることになる。
だから私は大反対なのだ。「TPPを慎重に考える会」となっているが、私は
慎重どころではなく「大反対」なのだ。 アメリカが動き出す時には、きちん
とした背景があり、戦略がある。自ら世界を変えられる力があるのだ。そこが外
交上もずっと受け身な日本とは異なる。それではアメリカはなぜTPPを持ち出
してきたのかについて検証してみる。
-------------------------------
◇物づくりを忘れたアメリカ
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長期的視点から見るとアメリカはもうずぼらな国になり下がり、自ら物を生産
すると能力は衰えてしまっている。アメリカの貿易収支の面でいうと、稼げるの
は農産物(269億ドルの黒字)と工業製品では武器輸出関連のものしかなく、
あとは金融サービス(1,363億ドル)で黒字になっているだけである。
したがって、アメリカは、ウルグアイ・ラウンドの頃から新三分野(投資
TRIM)、金融サービス(GATS)、知的財産)でアメリカの有利なルール
を作ることを目的としている。しかし、これがうまく行けばいくほど、自ら汗し
て働くことを忘れ、マネーゲーム等で儲けるようになり、ますます没落すること
に繋がっているのではないかと思っている。
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◇没落するアメリカのしたたかな金融・投資戦略
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アメリカはOECDでまず先進国間で投資の自由化を試みたが、同じ事を試み
たが、1998年10月、ジョスパン仏首相が参加を取りやめ、各国もフランス
に同調し失敗している。ドーハ・ラウンドでもアメリカはWTOのTPIM協定
で、投資の自由化を推進しようとしたが進んでない。同じことを米州自由貿易地
域(FTAA)でやろうとしたが、南米諸国の反発を買い、やはり実現しなかっ
た。各国ともアメリカの金融支配に明らかにNOを突きつけているのだ。
さて、問題のTPPであるが、2008年2月4日、シュワブ通商代表が最初
に、P4と投資及び金融サービスに関する交渉を始めると発言している。つま
り、もともとP4協定になかったものを、投資と金融に興味を示して、TPPに
入ろうとしたのは明らかである。
そして、2009年11月14日の日本での発言につながった。TPPは、価
値観の同じアングロサクソン諸国・旧英連邦諸国なり弱小国を引き連れて、アメ
リカに都合のいいルールを作り、あわよくば無防備な日本を引っ張り込もう
という魂胆が透けて見えてくる。
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◇アジア金融通貨危機にこりた東南アジア諸国
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この魂胆をちゃんと知っているのは東南アジア諸国である。1997年ヘッジ
ファンドの空売りにより、タイ、インドネシア、韓国等は相当酷い通貨金融危機
に見舞われている。フィリピンにも影響し、日本にもトバッチリが来て、日本債
券信用銀行や日本長期信用銀行が経営破綻をきたし、外国資本の手にわたるキッ
カケとなった。だからこれらのアジアの国々はTPPを冷ややかな目で見ている。
ベトナムは対中国との関係があり、アメリカのバックアップが必要という特殊
な事情がある。忘れてならないのは、シンガポール、ベトナム、マレーシア等い
ずれもGDPに占める貿易の依存度は100%を超える国である。韓国
(80%)や日本(15%)と比べると、圧倒的に貿易に依存した国だから、
TPPに入ったほうが得なのだ。つまり各国の事情により入るか入らないか決め
ているのである。そういう点からすると、日本の入る事情は全くはっきりしない。
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◇カナダ・メキシコも南米も総スカン
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そして、他の国で言えば、NAFTAのカナダとメキシコが何故入らないか。
2ヶ国は、例のISD条項によりアメリカの企業から訴えられ、賠償金を払わざ
るを得なくなるなどして、アメリカ金融資本の横暴にすっかり嫌気がさしてい
る。韓国では、10月の選挙で野党や無党派に支援されて当選した朴元淳ソウル
市長が、韓国では毒素条項といわれるISD条項の見直し等を含める懸念を表明
し、今や2012年4月の総選挙の争点となっている。
今、日本で信を問うのは、原発もあるし消費税もあるが、TPPこそ選挙で問
うべき大問題なのだ。 NAFTAの後、自由貿易地域を、メルコスール4カ国
(アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイ)等南米にまで広げようと
していたが、反米でなるチャベス・ベネズエラ大統領等が反対し、頓挫してし
まった。
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◇オバマ再選の最後の拠り所TPP
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あちこちにソッポを向かれ、焦ったオバマ政権が急成長するアジア市場に目を
付けTPPに飛びついたともいえる。2010年1月の一般教書演説において、
jobという言葉を20回も使い5年間で輸出を倍増し、200万人の雇用をつ
くり、失業問題を解決するという国家輸出戦略を打ち出し、大統領再選に向けて
動き出したのだ。
オバマ大統領は、上院時代3件のFTAのうち1件(オマーン)しか賛成して
いないし、選挙公約でNAFTAの見直しやドーハ・ラウンドへの環境や労働に
関する議論の追加を主張していた。批准を待つだけのコロンビア、パナマ、韓国
のFTAにももともと乗り気ではなかったし、TPPへの関与は、はじめての
FTAに関する意思表明だった。オバマ大統領にとってTPPは、2011年
11月12,13日の生まれ故郷ホノルルのAPEC会合の政治的目玉として一
番重要だと考えているに違いな
い。
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◇少ない経済的効果
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景気回復もできず、雇用問題も9%を超える失業率が続き、中間選挙では民主
党が完敗している。そして、窮余の策が輸出拡大であり、成長著しいアジア市場
の獲得を狙っているのである。ただ、アメリカの輸出依存度は7〜8%と日本の
半分程度であり、冷え込んだアメリカの景気浮揚にはそれほど働くとは思えな
い。本音は、あくまで選挙向けのポーズである。そんなことになんで日本が付き
合わなければならないのか。誰が考えても損な相談である。
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◇長期的には中国牽制
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もう一つ重要な背景は、中国への牽制という覇権争いである。国産空母建造や
次世代ステルス戦闘機「殲−20」開発など軍備増強が目立つ中国は、一方で
2010年ASEANとFTAを発効させていることになった。2011年5月
22日には、菅・胡・明の三者会談で、日中韓のFTAの研究が進められること
になった。
もともとは鳩山総理が東アジア共同体を強調し、小沢元代表が数多くの親派を
連れて中国詣でを繰り返すのにいらいらしているアメリカが焦り、自らの存在感
を向上させんとするのは自然である。 日本は中国の海洋侵出などには厳然と対
処する必要があるが、安全保障でアメリカのお世話になっているし、同盟国だか
らといって、TPPのような広範な分野においてアメリカに組する必要はない。
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◇始まったアメリカの先制攻撃
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私は、日本が交渉に参加を表明した途端、BSEの規制の緩和等無理難題を
言って、結局日本は入れないようにして、日本をのけ者にするのではないかと考
えている。そう思っていたら、11月8日、ボーカス上院財政委員長がカーク
USTR代表に対して、日本市場には自動車や牛肉を含む農産品、保険、医療な
どさまざまな分野で深刻な障壁があり、日本が市場開放に向けてTPPの高い基
準を満たす意思があるか慎重に確認するよう要請する書簡を発出した。もう門前
払いの徴候がみられる。
経済界は日本の輸出増に期待を寄せるが、オバマ大統領の狙いは、演説のとお
りアメリカの輸出倍増と200万人の雇用機会の拡大であり、アメリカの輸入増
など考えていない。2010年11月 横浜のAPEC総会で「巨額の貿易黒字
がある国は輸出での不健全は依存をやめ、内需拡大をとるべきだ。いかなる国も
アメリカに輸出さえすれば、経済的に繁栄できると考えるべきではない」と何も
隠さず正直に意図をぶちまけている。それにもかかわらず、日本の輸出を増やす
TPPなどどうして言えるだろうか。
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◇日本の恩は報われず
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ところが、日本がいくらポチよろしく尾っぽを振ってTPP交渉に参加してオ
バマ再選を助けたとしても、うまくいかない可能性のほうが高い。その場合、次
の共和党新大統領は、日本の一時の情け心に恩義など全く感じないだろう。大統
領再選の道具のために、日本の国の形まで変えてしまうようなTPPを推進する
というのは、あまりにもお人好しであり、こんな明々白々なことに気が付かない
日本の政治家がいるとしたら、願い下げである。
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◇20年前と比べアメリカの圧力はなし
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よくアメリカの圧力というけれども、今、日本に対してTPPに入れという政
界や産業界の圧力はほとんどない。日米通商交渉が盛んに行われた1980年代
は、アメリカは本当に怒っていた。毎年、日本の貿易黒字が500億ドルから
700億ドルになり、アメリカにとっては耐えられなかった。したがって、産業
界も怒り、政治家も国会の前で日本製品をハンマーで叩き割るといったようなパ
フォーマンスもみられた。
他の産業に高関税をかけるクロスリタリエーションとか、あるいは勝手に輸入
制限したりする、スーパー301条とかが連日新聞を賑わしていた。それに比べ
ると、今はそうした動きはほとんどない。他の東南アジア諸国、カナダ、メキシ
コ、南米諸国と違い、ただ一国あたふたしているのは、日本である。アメリカの
強い要望と勘違いし、せっせとTPP騒ぎを大きくしているのである。野田政権
の10月以降のTPP前のめりは自作自演の劇場政治でしかない。
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◇日本だけが「入水自殺」するのか
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その一方で、アメリカから農産物の輸入が拡大し、地方農村は更に疲弊し、医
療や金融サービスも大打撃を受けることになる。こんな筋書きが見えているの
に、なぜ立派な経済学者や日本の国益を考えて政策をいうマスコミも気付かない
のだろうか。私には不思議でならない。一刻も早く、TPPには参加しない宣言
を出すべきである。
(篠原 孝メールマガジン264号より転載)
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■宗ブータンのGNHと仏教思想 坪野 和子
― 伝統的な価値観による国家の自立と発展 ―
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このメールマガジンが発行されるころは、ブータン国王夫妻の来日が報道を賑
わせていることだろう。ブータン国王夫妻は、先月13-15日に挙式されたばかり
だ。世界中のメディアで、ロイヤルウェディングが伝えられた。
それまでほとんど話題にものぼらず、地理さえも知られていないヒマラヤの小
国(国土面積は九州とほぼ同じ)であるブータン王国がここまで注目された要因
は、稀代の美男美女のカップルであるがため…ではなく、国是であるGNH(国民総
幸福 以下GNHと記す)が多くの国々で関心を持たれているためである。
しかし、なぜか日本を含めた各国とも、なぜブータンがGNHを国是としたの
か、どういう発想、国情でGNHを見出したのか、十分かつ本来的な解明や議論が
なされず桃源郷幻想や一面的・表面的な理解としか思えない情報が蔓延してい
る。本稿において、GNHの背景を検証したい。
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◇1>ブータン王国にまつわる桃源郷幻想による誤解---すべては「自立」のため---
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ブータンに関して、決して間違いではないが、日本のメディアで断片的解釈の
みで伝えられている主なトピックは、「幸福の国」「禁煙国」「鎖国」「仏教が
国教」「民族衣装着用義務」「メディアの制限をしていた」などである。が、は
たしてどうか。
A)「禁煙国」?? 国民の健康を考える国??
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2003年よりブータンは、禁タバコ国である。ブータンでは紙巻タバコ、嗅ぎタ
バコ、ビディ(ミニ葉巻で廉価)、噛みタバコなど各種のタバコを常習している
ものが少なくなかった。タバコはほとんどが輸入品である。したがってタバコ依
存は、国民の健康のみならず国家経済的にも問題がある。また喫煙はマリファナ
も呼ぶことにもなる(自国でケシ科の植物が多数生息している)。「自立」のため
には「依存」を排除しなくてはならない。
B)「鎖国」していた?? 伝統文化を保護する国??
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外国人の観光が制限つきであるのは確かだが、しかし、1974年に解禁され、
2005年には急速に旅行者数が増えている。また、インド人労働者や職人が都市部
に住み、先進国からの国際協力関係者も多数滞在している。そして、自国民は、
インドやチベット、タイへ旅行や商売ででかけている。
外国人の入国制限は外国からの情報・物品の流入阻止や環境保全のためのみで
はない。近隣のネパールの状況の観察からの反省もある。「ネパールにたくさん
のヒッピーが溜まって、ほとんど住み着いた時代があった。彼らは観光客とは呼
べない」。これはチベット人文化人類学者リンジン野口の考察だ。つまり、観光
で儲かるどころか、税金を払わない国民を増やしただけであり、環境も風紀も壊
されていった。「自立」のためには「自国民の生活を脅かす要素」を排除しなく
てはならない。
C)「民族衣装着用義務」?? 伝統文化を維持する国??
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1980年代後半に、筆者がインド・ネパール・チベットなどで出会ったブータン
人の若者たちは、民族衣装ではなく、ジーパン姿だった。最近の留学生たちによ
れば「学校や役所では制服として民族衣装を着ます。会社などでは自由な民族衣
装を着ます。家や近所では洋服です」とのことだ。前国王の布告ではあるが、ド
レスコードの一種であると考えられよう。
民族衣装はアイデンティティであるのみならず、洋服を着ることにより、海外
からたくさんの服が入ってくる、そして、伝統的な技術が衰え、環境にも影響す
る。「自立」のためには「民族アイデンティティの衰退」を防ぐとともに「日常
物資の不必要な輸入増加」を排除しなくてはならない。
そのほか、テレビやインターネットなどのメディアの制限をしていたのは(確
証できる資料が存在しないため筆者の推測となるが)、国内の民衆に対する海外
情報の刺激を抑制するだけでなく、自国の情報が陸続きの近隣諸国に漏えいする
ことを防止する意味も含まれているのだろうと考えられる。
人口に膾炙するブータンのイメージは、「理想の国づくりのための閉鎖的な伝
統主義」という幻想によって、国策の真意・真相を見過ごしてきたことからうま
れた断片的解釈である。じつはいずれも「自立」のために行われている政策でも
あることを見過ごしてはならない。
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◇2>チベット系諸民族国家として唯一残ったブータン王国
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では、なぜブータンの政策には「自立」がキーワードとなっているのだろう
か。それは、ブータン王国の政治地理による。ブータン人とはヒマラヤ地域に広
く分布する複数のチベット系民族である。近隣のチベット系民族の「国」が次々
と亡失し、インド・中国・ネパールに呑み込まれていってしまったなか、唯一、
独立国として残ったのがブータン王国である。
ブータンは王国として成立する以前は、大寺院直轄の荘園だった。王国成立以
前は、シッキムやチベットに軍事的な依存をしていたが、経済的には、自給自足
の生活をし、紙や果物の輸出をしていたために依存状態ではなかった。19世紀末
になると、ブータンの有力豪族の1人、ウゲン・ワンチュクが台頭し、英領イン
ド軍のチベット遠征隊を支援するなどして英国の支持を獲得した。
英国援助により国内政治の主導権を確保したワンチュクは、1907年に寺院支配
を廃し、自らが国王となって世襲君主制を確立した。1952年、第3代国王ジグ
メ・ドルジェ・ワンチュク王は国連加盟など国際社会への参加をはたすととも
に、第2代まで行われていた権力集中を分散することによって近代国家独立への
努力を重ねていった。
第3代国王が急逝し、第4代ジグメ・センゲ・ワンチュクが17歳で即位するが、
即位式での演説は、『ブータンの歴史』(ブータン教育省 平山修一監修訳)に
よれば、「現在、われわれの前にある最も重要な課題は、将来にわたるわが国の
継続的な発展を確実なものとするために経済的自立を達成することである。
ブータンの人口は小規模であるが、豊富な土地と豊かな自然資源、健全な計画
を以って、近い将来にわれわれの目標である経済的自立の達成を実現することが
できる(後略)」というものであった。国家としての独立を得、国際社会での認知
を得たものの、経済的自立を達成しなくては、国家の継続的発展および国家その
ものの存続があやぶまれる。
即位演説に基づいた在位25年間の施政理念は、「社会・経済的繁栄/国民総幸
福(GNH)/国民参加/強力かつ効率的な行政制度/国家の自立/文化と宗教の保全/ひ
とつの国家ひとつの国民(One Nation, One people)」であった。これらの政策理
念は、国家の独自性を保つためには近代的発展と伝統的価値観を調和させる必要
があるとの判断から、インド・欧米の理数系および法学系的発想のみでなく、
ブータンの伝統的な価値観である仏教思想・論理学を背景とする発想にも依った
ものである。
技術面・資金面の海外援助によるインフラ整備や興産、民主化による選挙、憲
法制定など形式が整い、立憲君主国としての始動が可能となったと判断した第4
代国王は、憲法に自ら定めた国王退位年齢の65歳より早期に譲位を決意する。
2008年、現第5代国王も、即位2年後の戴冠式において、「平和、幸福、繁栄」
と常套句のようなことばとともに、「国民総幸福の論理の自性(本質)」とか「法
心性(ほっしんしょう)の思念を持つ地の住民であるみなさんは、浄心、善心、慈
悲、円満、団結、我々の文化や伝統を尊重し」などという言い回しで、仏教思想
に基づく価値観の尊重を強調したのである。
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◇3> GNH(国民総幸福)の発想から理論構築まで
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第4代国王以前にも「国民すべての幸福Gross national happiness」という表
現は、保健・医療・福祉の分野で英文の書籍や雑誌等で散見されていた。第4代
国王が1972年に提唱した当初もそのような意味であった。1976年、第4代国王
は、非同盟諸国会議のスピーチで、「GDPよりGNHが重要」と対外的に発言している。
それ以降も国内において学校教育現場や各職場、寺院などで「内向き」に使わ
れていたにとどまり、具体的な理論化・実践方法の探求はむしろ海外との学術協
力のなかで進められていったと考えられる。
1980年代のブータンから国外へ向けた記述や冊子などではまだ発展はインフラ
や開発に関する記載にのみ留まっている。1998年、ジグメ・ティンレー首相が演
説で、はじめて具体的に「GNH」にふれ、これを皮切りに、水面下で研究されて
いた成果が国際舞台で提唱され、世界に認知されることとなった。
カルマ・ウラ国立研究所所長は、講演で使うスライドで、転法輪の図を示し、
1.意安楽([仏教用語]快適さ) 2.健康 3.自分の時間の使い方 4.文化的多様性
と再生 5.良い統治 6.コミュニティーの活力 7.生物多様性と回復力(環境)
8.生活水準 9.教育の、9つの構成要素が転輪している中心に、10個目としてGHN
を置いて、その包括的意味を説明している。国家全体の圓満具足(完全な完成)あ
るいは圓満究竟(完全な境地)という仏教概念が反映されているのである。
ブータンにとって、大国に併合されず、経済的な支配を受けず、また世界とも
孤立せずに、独立国でいるためには、「自立」が必須の命題となる。GNHはブー
タンに根付いている独自の伝統文化すなわち仏教思想を根拠とした発展のための
施政理念である。そして、GDPを否定しているのではなく、GDPを含みかつ超えた
価値観を現代社会に提唱する概念なのである。
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◇付記1> GNH(国民総幸福)---ゾンカ語「幸福」の概念---
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ここでは、ゾンカ語原語によるGNHの定義について述べたい。
ギャルヨン・ガーキィ・ペルゾム(rGyal Yongs dGa’ sKyid dpal ‘dzom)
これが原語のGross National Happinessだ。ギャルヨンrGyal Yongsとは、国
民、国家を指す。「全国の」という場合も多い。
ガーキィdGa’ sKyidとは、熟語として使用する場合は、「happy」
「Happiness」だが、ガーdGaは、単体では仏教用語の「歓喜(かんぎ)」に相当す
る。キィsKyidは、精神的な楽しさ、仏教用語の「楽(らく)」に相当する。これ
を合わせると、健康的・精神的な生活(仏教用語「身」)、文化の智慧・知識を
楽しむ生活(仏教用語「口(く)」)、充実した慈愛ある人間関係と自然との共存
(仏教用語「意」)、これらが「圓満」であることがゾンカ語の「幸福」である。
GNHの9つの要因は、3つの要素をさらに3つに分けて成立したものと分析でき
る。したがって、英語のHappyやHappinessとは、もともと価値観の違う「幸福」
の感じ方だと考えて差し支えないだろう。ペルゾムdpal ‘dzomとは、集積を意味
する。
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◇付記2> 仏教は国教ではなく、持続可能な開発が実現する条件の形成追及の
基本原理
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ゾンカ語版ブータン王国憲法では以下のように記述されている。これらには、
仏教は国教であるという記述はない。
「第2条 王制 第2節 政教二元 の本質は、ブータン国王陛下の龍体にこそ
凝集され、仏教徒として宗教をつかさどられるブータン国王陛下は、政教二元の
宣示をつかさどられる方であられる」「第9条 国の政策の基本原理 第20節
国により、普遍的な人間の個性並びに仏教実践及び仏教理論 に根ざす善行及び
慈愛が施される各共同体において、あらゆる持続可能な開発が実現する条件の形
成が追求されなければならない」
「第1附則 ブータンの国旗及び国章 国旗 基底部に触れている上半分の黄
色は、俗伝統の象徴として顕現される宝たる人そのものの御影であり、その御方
が政教二元の基礎であることを象徴している。頂上部までのびている橙色は、聖
伝統の仏教象徴並びにカギュ及びニンマの教えの永劫を顕示している」
[諸橋・坪野共訳]
(筆者は埼玉大学非常勤講師)
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■【横丁茶話】 西村 徹
〜 ある握手etc 〜
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●ある握手
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2009年8月の第45回衆議院議員総選挙で、民主党があのような歴史的大
勝を収めるなどとは夢にも思えなかった初夏のこと。しかしなんとなく政権交代
に向ってひた走っているような気配もないではない梅雨空のある日のこと。
この地区の候補者はまだ公認ももらえていなかったが、この地の区役所近くの
街頭で演説をし、菅直人が応援にやってくることになった。菅直人は今みたいに
賞味期限切れのイメージではなくて、まだ十分鮮度を保っていた。そこそこ衆望
を担いうる求心力を持っていたといってよい。
妻が候補者を支援していたので演説のサクラに動員されていたが、別な用向き
があって出かけられなかった。代わりというほどのことではないが、まあ散歩が
てら片道20分を歩いて出かけていってサクラになって演説を聴いた。
なにを聴いたか忘れてしまったのだから聴いたというより見たというほうがよ
いかもしれない。麻生太郎の背広とか、川筋者とか言っていたのを覚えている。
小雨模様だった。それでもなかなかの盛況だった。
演説も何もかもが終わって、どういう前後関係だったか忘れたが、菅直人が一
人でこちらに歩いてくるのとすれ違う羽目になった。小雨の中で他に人影もな
かった。いま思うと何故だか分らないが、思わず出会いがしらに私は右手を差し
出していた。かならず傘は左手で持つわけではないが、そのときは右手が空いて
いたからそういうことになっただけのような気がする。
右手で傘を持っていたならそういうことにはならなかったような気がする。私
は政治家と握手をすることを好まない。しかし、やはりサクラとして来た以上は
無意識のうちに握手もサクラの義理のうちと考えたのであろうか。
ところで菅直人の差し出したのは右手でなくて左手だった。左手が上から下向
きに被さるように肘から一ひねりして降りてきた。ああいう握手は八十年余の生
涯で初めてのことだった。上から目線は知っているが上から手線というのは知ら
なかった。後で何度も考えて横に開けば手をつなぐのと同じになるのだと知って
ようやく組み手のからくりが理解できた。
なにせ経験したことのないことだから、先ず目が点になり、心象風景は一瞬網
掛けがほどこされたみたいに翳った。
兵隊は負傷などで右手が使えないとき左を挙手して敬礼する。握手もそういう
ことはあるかもしれない。私はすこし左利きの傾きもあるので傘は右左きまらな
いが、完全右利きの人のばあい傘は右手ときまって動かしがたいのかもしれな
い。それにしても空いている方の手に持ち替えるぐらいはしてもよさそうに思
う。箸は難しかろうが傘や杖ならできるだろう。
しかし、よどみなく左手を肘からひねって裏返した、まさに手捌きの鮮やかさ
は、相当に場数を踏んでいることを物語っているように推測される。市川房江の
選挙の手伝いをしていたころから身につけていたものなのかもしれない。
右手と左手を組むのであっても横に並んで手をつなぐのと、相手がそのままぐ
るりと回って正面に立つのとでは関係性はまさに180度反転する。水平の連帯
であったものが上下の関係に一変する。自分は見下して相手には見上げることを
要求する形になる。並んで手をつなぐのであれば、たとえばクエーカーの人たち
が手をつないで無言の祈りを捧げるのに私は深い感動を覚える。
決して手と手の皮膚の接触を、たとえ政治家とであっても厭うものではない。
とにかく左手をぶら下げての握手はやめたがいい。たった今気付いたのだが、ど
うしても左手を差し出したいなら下に肘を曲げないで上に曲げて左手を差し上げ
ればよい。
4月21日菅直人が福島第一原発近く田村市の避難所を訪れたとき、とおり
いっぺんのパフォーマンスをこなして、そのままそそくさと立ち去ろうとした菅
直人にむかって、「もう帰るんですか」と避難民の一人が気色ばむ場面があっ
た。その映像をテレビで見たとき、意識の奥に沈んでいた、あの握手の記憶がよ
みがえった。
総理大臣がときどきウソをつくのも必要があれば致し方ないだろうし、格別に
人格の高潔を求める気もさらさらない。多少の艶聞は愛嬌になることもある。少
なくとも週刊誌の記者にメシの種を提供するメリットはあるだろう。そんなこと
はたいしたことではない。ケンチャナヨだ。もちろん能力がないのは困るが、総
理大臣たるもの薄情だけはゼッタイにゼッタイいけないと思う。
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●TPP.大芝居?
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野田という人が総理大臣になった。たしかこの人は、永田メール事件のときの
幹事長だったかと思う。前原という人が民主党代表選で「自分は母子家庭育ち
だ」といってお涙頂戴演説をしたのが効いて、それで僅差で菅直人を破り、まさ
かの代表になった。そしておなじマツシタ塾の仲間だというので幹事長になった
のだったと思う。そして前原といっしょに永田メールにゴーサインを出したの
だったと思う。ほったらかしにされて永田は自殺し野田は総理になった。よくよ
く運の強い人らしい。
その野田総理は総理になってから国民には知らせないまま国の外で消費税をや
るとかTPPをやるとか言いまくっている。永田をほったらかしにしたのとおな
じように国民をほったらかしにするのが得意な人らしい。そこで今度はTPPで
大騒ぎになったというわけだが、どうも今度はひょっとするとこの騒ぎは、知っ
てか知らずか、つまり怪我の功名にすぎないかもしれないが、結果として野田の
打った大芝居ということになるのかもしれない。
TPPを第三の開国といってはしゃいだのは野田ではない。菅直人がはしゃい
で、そしてほったらかしにしたことだ。野田は尻拭いをしているだけだ。とする
と、どうせオバマのところにTPPという土産を持っていくのなら、土産にはで
きるだけ付加価値をつけて高く売ったほうがいいに決まっている。
交渉ごとは閣議の専決事項だとかいうことを耳にしたので、それならこの騒ぎ
は八百長の大芝居ではないかと思う次第。出来るだけ派手にやって「やってんだ
ぞ!」とオバマに見せておいた方がよいということになる。 国会で批准するし
ないを議論するときのためにもよいだろう。パンプキンフェースも、なかなかや
るじゃん!まるきり責任なく思うのである。(2011/11/14)
(筆者は堺市在住・大阪女子大学名誉教授)
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■【北から南から】
1.中国・深セン 〜『薄情な中国現代社会 前編』〜 佐藤 美和子
2.英国・コッツウォルズ〜『英国の子育て・教育』〜 小野 まり
3.米国・マジソン (最終回) 〜アメリカ、アメリカ〜 石田 奈加子
4.アジア・上海 〜就労する外国人から、保険料を徴収〜 石井 行人
───────────────────────────────────
───────────────────────────────────
■ 【北から南から】
1.中国・深セン 〜『薄情な中国現代社会 前編』〜 佐藤 美和子
───────────────────────────────────
中国広東省の仏山市にて先月、2歳の女児がワゴン車に轢き逃げされるという
事件がありました。18人もの人が道に横たわる女児のそばを通りかかったにも関
わらず、誰も助けず素通りしていったというショッキングなものです。
中国の街中には、あちこちにものすごい数の監視カメラがついています。この
事故現場は偶然監視カメラがとらえていたため、その一部始終が動画サイトで紹
介され、あっという間に全国、そして世界に知れ渡るニュースとなってしまいま
した。
女児は事故にあってから更に別の車にも轢かれ、約7分もの後にやっと19人目
のゴミ収集を生業とする58歳の貧しい女性に助けられました(しかし女児は後
日、病院にて治療の甲斐なく死亡)。
この事件の問題点は、事故そのものや見殺しにした人たちだけではありませ
ん。 ニュースに取り上げられて大騒ぎになると、なぜかとある企業がこの19人
目の女性に対し、報奨金を渡そうと名乗り出ます。彼女の勇気ある行動に感動し
たので、彼女の生活の向上を助けたいという名目です。
その様子も動画で紹介されたのですが、路上にて大勢のメディアや野次馬に取
り囲まれて戸惑う女性に赤いプラカードを持たせ、100元札を分厚く束ねた報奨
金を渡そうとするのです。女性のひざに乗せられたそのプラカードには、企業名
とともに、『勇敢なる善人の何某さんに、5万元(約60万円)を寄付する』との
文言が……。
彼女は何度もその現金の束を押し返し、お金はあの子の治療費に使ってあげて
欲しいと訴えるのですが、女児にもすでに5万元を寄付しているからと言って、
最終的には無理やり受け取らされた模様です。
ゴミ収集を生業とし、また文盲のため自力では電話もかけることができないと
いう彼女は、突然大勢の人に取り囲まれ取材されフラッシュを浴びせられ、困惑
しきっていました。善人には善行の報いを受けて欲しいからと言うものの、彼女
を否応なく衆人環視の場に引っ張り出し、カメラの前で剥き出しの現金の束を押
し付けようとする行為。本当に心から相手のためを思うのなら、もっと違うやり
方があるだろうに……。
こういうデモンストレーションには、見殺しにした18人に対するのと同じくら
い、薄ら寒い思いがします。 女性は最終的に報奨金を受け取ったものの、その
一部を女児の治療費の足しにして欲しいと言って病院に見舞い、女児の母親に渡
したそうです。また、市政府からも報奨金が出ることになったのに、「当たり前
のことをしただけだから」とこちらは辞退したとか。
しかしその女性は、一部の人から「女児を助けたのは、売名行為だろう」と、
なんとも心無い非難を受けてしまいます。あの動画のなかの、明らかに人々の注
目から逃れたがっている彼女の様子や表情を見ても、そんな邪推をしてしまうと
は……。助けても助けなくても非難されるとは、一体何をどうすればいいというの
でしょうか。
この事件で18人もの人が瀕死の女児を素通りしたのには、さまざまな現代中国
社会の事情が背景にあるようです。例えば報道でも指摘されていたように、5年
前に南京市で起こった衝撃的な事件が大きなきっかけとなっています。倒れてい
る老婦人を助け起こし、病院へ送ってあげた男性が、老婦人に感謝されるどころ
か、逆にこの男性に突き飛ばされて骨折したのだと医療費や慰謝料を求める訴訟
を起こされたのです。
そしてその後、中国各地で類似事件が相次ぎます。しまいには倒れている老人
を助けるのは危険だという風潮が見られるようになり、誰にも助けられず路上で
亡くなってしまう老人が出ました。また、誰も自分を助け起こそうとしないこと
に業を煮やした老人が、「わしゃ自分で躓いて転んだんだ、助けてくれる人を訴
えたりはしないよ!」と大声で道行く人に訴えてやっと助けてもらえた、などと
いう一見喜劇のようなことも起こりました。
転んだり倒れたりした老人が病院に運ばれると、当然ですが検査や治療のため
の医療費がかかります。その医療費を支払う当てがない老人が、助けてくれた人
を犯人扱いにして治療費を人に押し付けてしまうケースや、南京の事件を真似
て、はなから賠償金目当てで当たり屋的行為をした老人もいました。
こういう事件は人々の道徳意識にも問題があるとは思いますが、私は中国の医
療システムにも大きな原因があると思います。
中国の恐ろしく非効率な病院システムについては以前、書いたことがあります
が(オルタ53号)、診察・検査・治療・投薬など、そのつど費用を支払って領収
書を見せなければ、たとえ死にかけていても相手にしてもらえません。
見ず知らずの老人を病院に運んでも、その老人が自ら会計課に行ってもみく
ちゃになりながら並んで支払いができる訳はありませんので、助けた人が代わり
に支払わざるを得ません。倒れている人を見殺しにするのは通りすがりの人だけ
でなく、中国の病院だって医療費が払えない人は同じく見殺しにするからです。
病院に連れて行かず、倒れていた現場に救急車を呼んだ場合でも、駆けつけた
救急車は電話して呼び出した人に救急輸送代の先払いを求めてくるそうです。こ
んなシステムでは、経済的に余裕がないとか、現金の持ち合わせがない場合、人
助けもままならないということになります。
日本は健康保険制度が比較的充実しており、保険未加入者はさほど多くありま
せん。社会保険に未加入で貯金がない路上生活者でさえ、病気や怪我の際にはと
りあえず治療が受けられますよね。また経済的に生活が困難な場合には、生活保
護という制度もあります。
しかし中国では、そのどれをとっても日本のようにはいきません。健康保険制
度はこの数年でずいぶん普及しましたが、今の老人たちが働いていた頃にそんな
制度がなかったため、保険の恩恵を受けられない人がまだまだ大勢います。しか
も昔の中国の医療費は驚くほど安かったので、保険会社の保険に加入する必要も
ありませんでした。国による生活保護という制度も、ないに等しいです。
-------つまり、中国の一般市民が『冷漠(薄情)』なのではなく、社会システ
ムが冷漠なのです。
もし、お金の持ち合わせがなくとも、例えば公立病院や町の診療所でなら、た
とえ一時しのぎ程度でも簡単な治療が受けられる社会システムだったら、どうで
しょう?
そうであれば、良心の呵責に苦しみながらも逃げてしまっていた人たちだっ
て、人助けを躊躇わずに済むのではないでしょうか。医療費の支払いに困るあま
り、恩人を罪人に仕立て上げて医療費をゆするなんてこともせずに済むのではな
いでしょうか。
悪意を持つ人を完全になくすことはできずとも、血を流して横たわるわずか2
歳の子供を見捨てる人が、18人もいるなんて社会ではなくなると思うのです。
さて、次回は中国で生活していて身近で見聞きしたり体験した『冷漠社会』を
書きたいと思います。
(筆者は中国・深セン在住・日本語講師)
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■【北から南から】
2.英国・コッツウォルズ便り『英国の子育て・教育』(1)
小野 まり
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日本から英国へ移住してから、はや10年が経ちました。当時7歳だった息子は
現在17歳。いまは英国の高校にあたる「シックスフォーム」へ通っています。こ
の間、私自身にとって一番のカルチャーショックは、やはり日本と英国の教育の
違いかも知れません。そこで、この10年を振り返って、英国の子育て・教育につ
いて紹介してゆこうと思います。
移住の3年前、まだ4歳だった息子を連れ、英国への取材旅行を敢行しました。
イングランドの南端から北はスコットランドのアバディーンまで、おんぼろレン
タカーを借りて、およそ3ヶ月間の英国縦断の家族旅行でした。
その際、訪れた先々で知り合ったイギリス人から言われた言葉は、「もし家族
で英国に引っ越して来るなら、子供のためにロンドンなどの大都市ではなく、田
舎にするのよ。」と、まるで判で押したかのように、同じようなことを、色々な
方々から言われたのです。
不思議だなと思っていたのですが、英国では義務教育が始まるのは5歳から。
ちょうど息子の年齢は、この国であればどこの小学校へ入れるべきか、親が真剣
に考える時期だったのです。
その当時は、まだ移住の移の字も頭になかったので、すぐにはピンと来ません
でしたが、いま思えば、それはそれは素晴らしい助言だったと思います。近年、
日本が抱えている移民問題や少子高齢化問題は、おそらく英国のほうが20年か
30年は先を行っているのではないかと思われます。
それだけに、社会のあらゆる場で、様々な問題が長じていること。それが教育
の現場にも現れていることがその後少しずつですが、気づいてゆくことになりま
した。
イギリスの人たちが「子育てするなら田舎にかぎる」という理由はいくつかあ
ります。まず第一に、大都市圏の公立校は移民の数が圧倒的に多く、30人のクラ
スに白人がひとりもいないということも、珍しくありません。当然ですが、英語
を第一言語としている子供が少ない場合が多いのです。
第2は生活環境。英国の田舎が美しいことは、ここで言うまでもありません
が、英国の場合はその景観美だけではなく、ロンドンからどんなに離れている地
方でも、町の中心まで出れば、大都市と同じチェーン店が目抜き通りを飾り、劇
場や美術館が必ずあり、都会とさほど遜色のない文化的な生活を楽しむことがで
きます。
さらに物価や家賃が、大都市に比べ安いのは日本と同様です。また都会に比べ
て安全だということも生活していくうえでは大切なことです。
そして第3の理由、これが最も重要なのですが、教育水準の高さです。教育を
行う環境も、そのレベルも、大都市圏に比べると地方のほうが平均的にいい学校
が多いのです。
英国の場合、初等・中等教育で私立学校に通う子供たちは全体の5%です。大
学にいたっては、おそよ100校ある大学のうち私立校はわずかに1校。残るすべて
が国立です。私立校の授業料はざっと日本円に換算すると1学期100万円。年間
300万円以上します。
他方、公立校は「スクールディナー」と呼ばれる給食以外は、制服をのぞいて
すべてが無料。鉛筆やノートも学校で支給されますので、お金はまったくといい
ほどかかりません。制服のある場合も、大概は地元のスーパーストアーで千円前
後で購入できてしまいます。
このような状況ですので、一般庶民にとっては日本のように「公立がダメな
ら、私立へ」といった選択ができません。いかに環境がよく、教育水準の高い公
立校へ入れるか、子供の将来を考える親ならば、どんなにのんびりしていても、
子供が入学を控えた3、4歳には、真剣に学校選びを開始します。そのようなわけ
で、4歳の息子を連れ歩いている私たちの姿を見て、親切なイギリスの人たち
は、忠告せずにはいられなかったのかも知れません。
ところで、より良い公立校を探すための手段のひとつとして、英国には「リー
グ・テーブル」と呼ばれるものがあります。これは、小学校や中学校で行われる
全国一斉テストの結果をもとに、公立・私立を問わず格付けされるランキングで
す。毎年、小学校別、中学校別に新聞に掲載されます。このリーグ・テーブルに
載った順位と自分が住む地域にある学校をリサーチし、時には通学圏内にいい学
校がない場合は、家や職場を変えることもあります。
特に小学校の場合は、「どこの公立も同じようなもの」ではなく、地域や規
模、通っている生徒のバックグランドなどによって大きな差が長じるのです。で
すので、公立の小学校選びは、英国の親たちにとってかなりのプレッシャーと
なっています。
日本でも似たような状況かも知れませんが、私立校のお受験という選択肢が、
ごく限られているで、その他の庶民にとっては、いかに評判の良い公立校へ我が
子を入れるか、結構壮絶な「小学校受験」だったりします。
まぁ、そんな苦労があるとは露知らず、「なるほど、子育ては都会より田舎な
んだね。」と、イギリス人の言うことを鵜呑みにした我が家は、その3年後に、
まさに田舎の小学校へと、息子を転校させることになりました。自身のカル
チャーショックはこれからですが、それは次回へと譲りたいと思います。
(NPO法人ザ・ナショナル・トラストサポートセンター代表・英国事務局長)
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■【北から南から】
3.米国・マジソン (最終回) 〜アメリカ、アメリカ〜 石田 奈加子
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17世紀の初めから急速に進展したヨーロッパ大陸からの植民者による北アメ
リカ大陸の開発は18世紀後半東部13植民地のイギリス本国からの独立によっ
てアメリカ合衆国となったわけですが、その時点でのもっとも重要な成果は合衆
国憲法の制定かと思われます。
アメリカ合衆国成立後ヨーロッパ大陸の人々(国々)はそこに正義、自由、を標
榜する新興国の政治的、制度的、そして文化的可能性を見、後進国とみなされて
いるアジア諸国民は広大な領土に経済的改善の機会を見、いらい、250年近く世
界のあらゆる方面からの 憧れの的、注目の的になり続けてきました。
合衆国の諸要素については早くから様々の書物が書かれています。中でももっ
とも有名なのはアレクシス・ド・トックヴィルの「アメリカにおける民主主義」
だと思います。
この国の一番の特徴はその広大な領土とあらゆる面での多様性でしょうか。
(領土の広さからいうと、カナダやロシアの方が大きいそうですが、人間の居住
可能な面積からいうと合衆国の方が大きいのではないかと思います。) 勿論第
50番目の州のハワイを除いてですが、西海岸(太平洋岸)と東海岸(大西洋岸)の間
で三時間の時差があり地理、地勢、気候、風習等の多様性は想像を絶します。
西から東、または東から西へ大陸を横断した人々の回想記、ルポルタージュは
その多様性を証明して余りあります。相違は東西のみならず北と南の間にもあり
ます。ジャン・ボードリヤールの大陸横断記「AMERICA」のユタ、テキサス あ
たりの燃え立つ砂漠の有様は水が豊かで雑草の生い茂る草原のウィスコンシンか
らはまったくの他国に思われます。
生活のためか、楽しみのためか、絶えず国中を渡り歩く人たちはいざ知らず、
普通の人間はまず、どこなりと一箇所に定住するわけですからその人の生活経験
はその場所に基ずくわけです(その反面アメリカでは極簡単に人々が移住します。
もっともこの数年来の不景気で頻度が少なくなっているそうですが。ですか
ら、あれこれお話したウィスコンシンなり、マディソンなりの様相は東北部の、
あるいは中西部の中小都市とは共通点があると思いますが、東海岸、西海岸の大
都市、東の南部、西部の諸州等とはかなり違うのではないかと思います。
何事でも一概に一般化して、アメリカ人はとか日本人はとかいうのは危険なの
ですが、あえて言えば、国が広すぎてかまっていられないのか、国の成立が徐々
に行われた(州ごとに、だんだんに合衆国に参加して今日の形になった)、政治体
制として連邦制のせいか、非常に地方的(閉鎖的;視野が狭い)で、郷土心が強い
ようです。その反面、例えば9・11のような事件が起きるとか、他国に侵入す
るとかいうとワーッと星条旗の下に集参するのですが。
それと並んで特徴的なのは所謂アメリカ式の個人主義――人にとやかく言われず
に自分で好きなようにする――法律に定められた枠の中で個人の権利を主張する。
ところが、法律そのものが人間の決めるものですから気に入らなければ法律に挑
戦することも出来るわけです。
個人の権利の主張について、どうか、と思うことがしばしばあるのですが、そ
の一つで、昨年来大問題になり世界の注目も集めているのに、オバマ大統領の先
導で国会を通た健康保険制度があります。
アメリカ合衆国が所謂経済的先進国である国々の中で唯一の国民健康保険のな
い国だというのでオバマ氏の選挙公約の一つがこの点にあったわけですが、さて
出来上がった制度というのが国の政府が責任を持って国民の健康を保証するとい
うのではなくて、成年の国民全体に営利企業の健康保険を買うのを義務付けると
いうのが根幹になっています。
健康保険を交付する団体がMEDICARE(65歳から加入できる)のような国家が税金
で賄う保険ではなくて数ある企業のなかでも一番収益の多い保険会社なのはこの
制度の根幹的な欠点であるのはいうまでもありませんが、私企業の保険という特
定の商品を買うことを義務付けるのは個人の自由、権利の侵害というのが現在争
点になっています。
伝統的に20歳代から中年位いまでの人々が健康保険を買う率が低く保険金の集
まりが悪いので必然的に保険料が高騰する。それを阻止するために国民皆保険購
入とするわけ。それに対して保険を買いたくない人々は自分は健康で医者などに
掛からないのに保険を買わされて自分の保険料が自分のために使われないで他人
である病人のために使われてしまうから不公平だ、という。似たような考えが税
金についてもあります。
税金を喜んで納入する人は、まあ、世界中でも余りないと思いますが、この国
では出来るだけ払わないようにする。共和党の極右のTea Partyなどは 政府は
出来るだけ小さいのが良い (日常生活に介入しない)、税金制度を廃止しないま
でも国が破産しても税金を上げないという立場で非常に人気がある。
毎年四月半ば所得税申告の時期になると、どうやれば税金を少なくすることが
出来るかというアドヴァイスがテレビにも新聞にもインターネットにもでます。
(大体税金制度そのものが非常に複雑なせいもあります。)
そのくせ、やれどこかで災害が起こった、やれどこかの誰かが病気で悩んでい
るが治療費がない、などと報道されるとドッと驚くほど多額の寄付金が集まる。
義務付けられた税金は払いたくないけれど自分からあげようと思うお金は出せる
という民心なのです。
報酬なしで時間、労力を提供するボランティア・システムも同じところに根ざ
していると思います。ボランティア・システムはあらゆる生活面で行き渡ってい
ます。昨今では政府がその責任を果たさないでシステムを利用しているのではな
いかという面もあります。税金が充分に集まらないせいでもありましょう。
アメリカという国を考えてみると、矢張り一番気になるのはこの40年来の政治
的、社会的変化です。勿論どの社会でも時間が経つのにつれて変化するのは当然
ですが、それを進歩というものか。どんな観点から見て進歩というのか。
社会的には50−60年代の活気に満ちた公民権運動、ヴェトナム戦争に対する反
戦運動、女性解放運動の結果、人種、性別、宗教、性的選択等の面での差別の軽
減は目を見張るものがありますが(しかしその軽減の程度は地方によって大変な
差異があります、殊に人種、宗教に関して)これを進歩というか退廃というかは
その人の社会的、宗教的信条によります。
最も当惑するような変化は70年代以降現在に及ぶ社会経済面での変化です。こ
の七月末から八月初めに掛けての議会と政府の間の国家負債上限上昇政策に対す
る醜悪な駆け引きの末、S&Pが合衆国の融資保証率をAAA+からAA+に下げて大騒ぎ
になり、あたかも合衆国が信用に値しない、今にも破産するかのような三流国に
なったような印象を一般人に与えたようですが、実際には国全体としては大変な
額の資産、資源を持っていて今でも世界で一番金持ち、経済大国であるようです。
問題は経済活動が非常に偏っていて、社会として貧富の差が著しく開いてい
る。2011年現在最上部1%が国富の33%を所有していて、その点ではアフリカ
などの独裁政治国にほぼ同じく三流国ということになります。
インターネットのサイト(CounterPunch)からの孫引きですが「最上部1%の
財産所有が下部90−95%の所有と同じ。この同じ最上部1%が
1980−2005年の間のアメリカの個人所得上昇の80%を獲得。99%の
人口の経済水準が絶対的に低下し、個人所得の中央値は40年来停滞し多大の部分
の人口が急激な生活水準の低下を経験している。
この状態はアメリカ史上前例がない。」というのが現状。2008年の金融危機で
10%に上った失業率は現在9.1か9・2%ですがこの三年来少しも良くなり
ません。
ウィスコンシンの失業率は全国に比べてやや低い7.9%で、かなり安定した
中産階級が多数を占め、全国的に名望のある大学のあるマディソンでは表面的に
は異常な経済格差のあることも貧困も余り目立ちませんが、学童の6人のうち1人
は貧困家庭から(今年の貧困基準は4人家族で年収$22,350以下。これは週40時間
労働として時給$10.75ほどになります。ウィスコンシンの最低時給は$7.25)と
いう記事に出会いますとギョッといたします。
どうしてこんなことになってしまったのか。第二次世界大戦後の技術の飛躍的
な進展にともなっての経済成長、国全体の、殊に中産階級の賃金、生活水準の上
昇は終わりなく続くと思われ、60年代の、ヴェトナム戦争の最中でさえ貧困対策
としてMEDICARE /MEDICAIDが成立されたのに。現在この二つの健康保険制度が
ニューディール以来のSOCIAL SECURITY (社会保障)とならんで国費支出制限の
議論の的になっています。
CounterPunch編集者のアレキサンダー・コーバーンによりますと、「アメリカ
の将来は企業が資金を提供しているシンク・タンクが30−40年前、ネオ・リベラ
ル時代の夜明けの頃作成した青写真に見られる:組織された労働の破壊;社会保
障の漸次消滅;(企業に対する)政府による規則、条例の漸次廃止;あらゆる層に
おいての貧者に対する残酷な圧迫。」 そして、来年の大統領選の共和党からの
候補者たちは概ねこの線に沿っていて、オバマ氏もその半分ぐらいは同意してい
る、と見ています。
アメリカのそれほど長くもない歴史はいつもバラ色だったわけではなく (ま
あ、原住民のジェノサイド、奴隷制度による富の蓄積だけでも考えてみてくださ
い)不正義、偏見、差別、搾取、非情な利益の追求、権力による暴力などは今に
始まったものではありませんがそれでも昨今の政治のあり方を見ていますと「We
the People (我々人民)」ではじまるアメリカ合衆国憲法前文の、正義、平和、
防備、福祉、自由、繁栄を目指す精神はどうなってしまったのか、今一度読み直
されねばならないと思わずにはいられません。
チュニジアに発端して方々に広がっている革命運動、市民デモが雑多なこの国
でも可能かしら、この春のウィスコンシンにおける大規模な反政府デモの例はあ
りますが、全国的にそんなことが出来るだろうかと思っていましたら、九月半ば
からニューヨーク市でウオール街の金融企業に対するデモが始まり、数週間のう
ちに国内の多数の都市に、そしてヨーロッパ各国の都市に広がりつつあります。
選挙による代表民主主義の機能不全に、選挙そのものの腐敗に愛想をつかした
市民(We the People)の直接民主主義の主張でしょうか。今のところ二、三の
例を除いて行政府との腕力対決は起こっていませんが、この運動がいつまで持ち
こたえられるものか。どれだけ議会、政府を動かすことが出来るか、行き先は
さっぱり分かりませんが、少なくとも、来年の選挙を踏まえて、一般市民の意識
を喚起するのには役立つと思われます。
この国の現時点でのもう一つの大きな問題は国際関係、外交政策にあります
が、これは別に真剣に議論されねばならないと思います。
(筆者は米国・ウイスコン州・マジソン在住)
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■ 【北から南から】
4.アジア・上海 〜就労する外国人から、保険料を徴収〜 石井 行人
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大きなニュースが入ってきました。中国国内で就労する外国人(約23万人)
を対象に、保険料を徴収し始めるというものです。社会保険加入を義務付けた、
「社会保険法」(2011年7月1日施行。第97条)に基づいた措置で、その詳細は
「中国国内で就業する外国人の社会保険加入に関する暫定弁法」(、2011年10月
15日施行)で示されているとのことです。
中国の社会保険は、「5険」と呼ばれ 1)養老保険、2)医療保険、3)失業保
険、4)生育保険、5)労災保険、から構成されているそうです。今回の動きは、
この国内制度を外国人にも対象を広げる措置です。しかし施行日を目前にした今
でも、伝えられる内容は曖昧模糊としたものです。
中国は省、市、自治区ごとに法の運用が異なり、開始時の混乱は避けられそう
もありません。この新法が、日本人に、どのような影響を与えるかを、入手でき
る資料を通して考えてみました。
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◇<企業レベルから見る問題点>◇
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まず、企業レベルでの問題が、二点ほど指摘されています。まず、保険料
(40%)の両国にまたがる「二重払い」の問題です。約7万人ほどいる日系企業
の駐在員を(北京市ベース)例に取ると、1人当たりの保険料負担額(企業負担
と駐在員個人負担の合計)は、年間約83万円(推算)となり、約7万人で総額約
580億円もの二重払いが生じると予測されます。
次は、保険料の「掛け捨て」問題です。中国では、15年を超えて初めて年金が
支給され(定年=男性60歳、女性55歳)ますが、日本の旧社会保険事務所の不祥
事が示すように、その年金記録の信頼性に疑念がもたれます。すでにドイツ、韓
国は中国政府と社会保障協定を取り交わし、負担を軽減しています。日本政府も
二重払い回避に向け、中国政府と協定締結交渉を開始しましたが、すんなりいく
か、先行きは不透明なようです。
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◇<個人的なレベルからみる問題点>◇
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次に、より個人的なレベルの影響を考えてみましょう。典型的な駐在員ではな
く、私の知人の日本人大学教師に登場してもらいます。保険料率は従業員が中国
内で得た収入の約4割と聞き、仰天し震えていました。かれらは<専家証>と呼
ばれる<教育ビザ>を持ち、単年度契約です。駐在員と同様、「捕捉」の容易な
人々で、上海での平均月収は5000元(6万円、住宅手当を除く)ほどで、他の都
市をみると、3000元(南京市)程度に落ちます。しかも、最近は日本の人材派遣
業者が介在する場合が多くなり、低賃金化の傾向にあります。
この人物は、国立大で教えていますが、契約書には手取りだけが明記されてい
て、税金その他がどのようになっているのか皆目わからないそうです。また、日
本円への換金のために銀行へ行ったところ、納税証明が必要だと分かり学科にお
願いしたところ、「そんなことを言ったのは、あなたが最初だ」といわれ、唖然
としたそうです。
国立大学でも、こんな調子です。それ以後、街にたたずんでウインクしてくる
両替商に頼るしかないとのことです。「5年前と比べて両替率(日本円)で20%ダ
ウンし、物価は30%以上上昇し、給料は据え置きで、加えて本当に40%の社会保
険料を徴収されたら、生活は不可能だ。日本へ帰るしかない」と嘆いています。
「法整備や運用方法が決定できないので、徴収開始を延期する」という結末を
期待するのは、甘すぎるでしょうか。この人物曰く「医療保険といわれたって、
どうやってあの人民病院の人の波の中に入って行けると言うんだ!」。「対価な
く取られるだけ」と、言いたいようです。
(筆者は在上海・企業研究員)
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■ 【エッセイ】
メイ・サートン(1912−1995)の魅力 高沢 英子
―「おお わが心の思い描くいっさいを感じ、考え、生きるために、
たったひとつの心しかないとは」―「わたしは不死鳥を見た」より
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アメリカの女流詩人・作家メイ・サートンの、「独り居の日記」(1973年
刊)は、1991年10月、日本で初めて武田尚子さんの達意の翻訳によって、
みすず書房から出版されて大きな反響を呼んだ。
これは現在までに15刷を重ねるに至っている。続いて同じその仕事はさらに
何人かの女性研究者に引き継がれ、おもに後期の作品の多くが日本語で読めるよ
うになった。こうしてサートンの作品の類いまれな豊穣さと、純粋で瑞々しい思
索のしずくが、徐々に日本の読者のあいだに浸透し、広く知られるようになった。
以前も紹介したように、メイ・サートンはアメリカ生れではなく、ベルギー人
の科学者を父に持ち、画家でデザイナーの母はイギリス人で、4歳頃まで、ベル
ギーのゲントで育った。その間のさまざまな事情や彼女を取り巻く人間模様が、
初期の自伝的回想「わたしは不死鳥を見た」(武田尚子訳 みすず書房 )に,
独特の詩的筆致で生き生きと描写されている。
不死鳥は、古代神話の火の鳥。数百年、あるいは数万年に一度、みずから香木
を積み重ねて火をつけた中に飛び込んで焼死し、その灰の中から再び美しい若鳥
となって現れるという伝説の大鳥である。
古来詩文のなかなどで、ある種の象徴的存在として語られてきたが、彼女も終
生、これを自分の崇敬するひとたちの化身とも、あるいは自己自身の詩的象徴と
もしつつ、83年に及ぶ長い生涯にわたってひたすらペンをとりつづけ、ほとん
ど文筆ひとつで生活を支え続けた。
冒頭に掲げたエピグラムは、著者が、「私は不死鳥を見た」のなかで、自身の
父親のモデルである十九歳の青年の独白として書き記した言葉である。
1800年代末から1900年代はじめにかけてのヨーロッパ世界は、いまだ多
くの鋭敏な若者にとって、美と善に夢と希望を託し、幸福と栄光の予感に震えな
がら 人間性の進歩”を信じ、世界を改造し、創造の翼を思い切りひろげることが
できるものとして在った。
「わたしは不死鳥を見た」は、第一部の最初の篇で、著者の父の一族の多彩な
人間像の紹介に始まり、第二篇では、彼女の母の複雑に事情の絡み合った生い立
ちが、母が書き残した覚書をもとに語られる。彼女はその覚書について、追憶
が、まるで日本の水中花のように水の中でゆっくり開いていったみたいだ、と美
しく表現している。
続く三篇は両親の出会いと結婚までの経緯、そして、1900年代の始めのベ
ルギーの受難と、サートン一家がついにアメリカに辿りつくまでの苦しい遍歴の
あとが赤裸々に語られる。
しかし、あらかじめ断っておかねばならないが、これは、決していわゆるド
キュメンタリーではないので、描写はあくまでも内観的であり、事実自体は、作
者の断片的な記憶が、のちの聞き覚えとか、残された古い手紙といった資料や歴
史的な日付で綴り合わされたもの、といった程度に過ぎない。そして不思議なこ
とにそれがむしろドキュメンタリーより深い意味を持って読者の心を打つ。
たとえば、時としてさっと過去の現実に光があたり、なんでもない日常の一こ
まが浮かび上がり、いつまでも亡霊のように付き纏う、ということは誰にでもあ
ることだが、それは、人にとってかけがえのない宝石のようなものだ、というこ
とが、身に沁みて理解される、という風な具合に話が進行する。
わたしは、これを読みながら,しばしば室生犀星の「幼年時代」「性に目覚め
る頃」「杏っ子」などの一連の自伝的作品を想起した。書かれている中身がまっ
たく違うにもかかわらず、詩的感性において相通じるものがあるのだろうか、全
体の雰囲気や描写の底に流れるものが、どこか同質の協和音のように共鳴する感
覚ががあった。
本題に戻ろう。若い科学者志望のロマンティスト、ジョージ・サートンと画家
として自立する願望に燃えながら、手芸デザインなどの仕事を細々と続けていた
芸術家のメイベル・エルウィスは、何年もの間、友人としてつきあったのち、紆
余曲折を経て1910年結ばれる。メイベルのほうが、5,6歳年上のようだ
が、著者自身の思い違いからか、記述に多少食い違いがあり、はっきりしたこと
は分からない。
互いにやりたいことがあり、理想に燃えていたものの、当面生活費のあてもな
く、二人とも孤児同然で、ジョージのわずかな遺産で手に入れた、町から3キロ
ほど離れたウォンデルヘムの小さな果樹園つきの家で、2年後の1912年メイ
が生まれている。束の間の平和な日々。しかしやがてヨーロッパ全体を捲き込
み、多くの家庭を地獄に叩き込むような悲劇の日々が、刻刻としのびよって来て
いた。このあたりのサートンの叙述を引用して今回の稿は終わりにしたい。
「ウォンデルヘムでの1914年の春と夏私たち三人はこの上なく幸福で、そ
れぞれが独立していた。・・・・・六月二十八日にフェルディナンド大公(オー
ストリア皇太子)が暗殺された。父が静かに書斎で仕事(★筆者註:科学哲学的
総合誌の編集)をし、母が今年は実をつけないプラムをふしぎがっていた七月
いっぱい、外交官たちはヨーロッパじゅうを駆けめぐっていた。
だれも正視したがらず、「ぶっそうなもの」と呼ばれた戦争が,ついそこで待
ち伏せしていた。新聞は噂でうずまり、叔父のジュールは、仲間たちにアント
ウェルペンのカフェデ警告をあたえながら、憤怒で卒倒しそうになってい
た。・・・八月二日、ドイツ軍はベルギー領土の自由通行を求めたが拒否される。
しかし八月三日に、彼らは尖塔のようなスパイクつきのヘルメット姿で行進し
てきた。ウォンデルヘムの小さな村では教会の鐘が警報を響かせ、郵便夫は動員
令を配達した」 短い簡潔なこの数行の語ることが、サートン一家のその後の運
命を決定的に変えることになる。
(筆者は東京都在住・エッセースト)
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■【NPO紹介】NPO法人 ザ・ナショナル・トラストサポートセンター
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ナショナル・トラストサポートセンターでは、2002年の設立以来、英国ザ・ナ
ショナル・トラストをはじめ、内外のナショナル・トラストの活動を紹介するこ
とにより、日本および海外のナショナル・トラスト活動に寄与し、自然環境や歴
史環境の保全に資する活動をおこなってきました。
その一環として、歴史的建造物の見学も多数開催してきました。こうした活動
を通じて国内のトラスト活動に関わる団体との連携を深めると同時に、多くの方
がサポートセンターの見学会をきっかけに、歴史的建造物の保全や各地のナショ
ナル・トラスト活動に関心を持っていただけるよう努めてまいりたいと思ってい
ます。
大地震、原発事故に関心が寄せられるなか、自然環境・歴史環境の保全にも寄
与できるよう微力ながら尽力いたします。会員の皆さまからの年会費、定例会参
加費による収益は、英国ナショナル・トラスト、(社)日本ナショナル・トラス
ト協会、アメニティ2000、啓明学園等の団体へ寄付され、日英の環境保護普及活
動にも役立てられています。
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■日本事務局の活動
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電話やメールでの英国ナショナル・トラストの現地情報についてのお問い合せ
や、入会申し込みのお手伝いを随時行っております。また「ナショナル・トラス
ト友の会」を運営。毎月定例会を開き、会員のみならず一般の方々にも幅広いご
参加を呼びかけております。
ナショナル・トラスト友の会の入会や定例会への参加のお申込みは
ナショナル・トラスト サポートセンター事務局
TEL&FAX:044-861-0445 e-mail:ntscj@ntscj.org
URL://www.ntscj.org/
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■英国事務局の活動
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2001年の開催から10年目を迎えました英国ナショナル・トラストHENRO展をサ
ポートしています。尚、このHENRO展の収益の一部は小野琢正を通じ、英国ナ
ショナル・トラストへ寄付されます。詳細は英国ナショナル・トラストのサイト
でご覧いただけます。 http://www.nationaltrust.org.uk
英国事務局の小野まりが綴る遍路展随行日記「英国遍路日記」を、年数回メール
マガジンでお届けしています。配信ご希望の方は下記までご登録ください。
http://www.asahi-net.or.jp/~hh5y-szk/ono/ono0.htm
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■俳句 富田 昌宏
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睦び合う蜻蛉まぶしや震災地
鬼やんま仮設住居を翔たざりし
(セシウム検出)干し柿の加工自粛や伊達郡(ごおり)
被災地に戻り障子を洗ひけり
亡妻(つま)の影張付く障子洗ひけり
柿一つ乗せ伝言の走り書
燈火親し事典を割って拾ふ文字
新米や一升枡の角丸く
つまづきし石に影あり十三夜
(マータイさん死去)爽秋や「Mottainai」の言重く
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■川柳 横 風 人
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ウィルスは 公と資本を ねらい撃つ
5Pから 四億隠し もう終めよう
膨らんだ 補正とボラ活 狭間いかが
誰れ支え 金と気力衰え 小声の民
検察の 常識と良識 審査要
ヒト・モノ・カネ ありそでない国 この先は
ブータンは 人本位制 うらやまし
東北の 産品買う人 避ける人
普天間が ジット見守る 我が平和
日が経てど 被災地の明日 めど立たず
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【編集後記】
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◎野田政権は「関係国とTPPの協議に入る」と表明したが、早速、米国から「例外
なし」と手荒な歓迎声明を受けている。TPPは農業だけでなく医療・郵政・保険
など日本の国のかたちをアメリカ基準に変えてしまう危険がある。小泉改革以
来、日本のマスコミはすっかり農業を「抵抗者」、財界を「改革者」に仕立上げ
ているが果たしてそうであろうか。
ナオミ・クラインが世界的ベストセラー『ショック・ドクトリン』(岩波書店
刊)で「徹底した民営化と規制撤廃、自由貿易、福祉や医療など社会支出の削減
などを柱とする経済政策は大企業や多国籍企業、投資家の利益に結び付き、格差
拡大や社会的緊張を増大させる」と鋭く指摘している。
今、アメリカ社会で格差問題など何が起きているかは「99%運動」を見るま
でもない。今号では濱田幸生氏に農業者の立場から【米国はTPPで日本の沃土を
狙っている】とTPPを論じ、初岡昌一郎氏の【海外論潮短評】ではアメリカ社会
の課題を「フオーリン・アフエアーズ」最新号でのアメリカの代表的ジャーナリ
スト、ジョージ・パーカーによる『アメリカの終わりか~不平等と社会的衰退』
を紹介して頂いた。
◎さらに【運動資料】ではTPPについて、前農水副大臣篠原孝氏のメールマガジン
が問題点を分かりやすく解明しているので同議員の了解を得て転載した。篠原氏
は元農林官僚でOECDに出向し、国際交渉の厳しさを体験され、『農的小日本主義
の勧め』『EUの農業交渉力』など著書が多数あり、早くからの『地産・地消。旬
産・旬消』の提唱者としても知られる民主党きっての農政通である。
◎ちょっとしたブータンブームだが、これはハンサムな国王が一般人から美貌の
王妃を迎え、国賓として新婚旅行を兼ねて訪日したという明るいニュースのため
だけではない。3・11以後の日本ではGDP一辺倒でよいのか。国民の真の幸福とは
何か。と改めて考えたいという気分があるからだ。
インドと中国に挟まれた人口70万の小国ブータンはGNH(国民総幸福感)の提
唱で知られる。しかし、日本のマスコミには大分思い込みや伝聞が多い。これに
ついてちて現地に詳しく、憲法などをゾンカ語から直接研究されている埼玉大非
常勤講師坪野和子氏から、『ブータンのGNHと仏教思想―国家の自立とアイデイテ
イ発展―』のご寄稿を頂いた。
◎10月20日生活クラブ岩根邦雄氏を囲む会出席、21日ソシアルアジア研究会で大
崎佳奈子氏(前在中国日本大使館一等書記官)の『大使館勤務を通して見た北京
と中国』を聞く。24日東京・新宿のヒルトンホテルで世田谷区長保坂展人氏を励
ます会に出席。25日榎彰東海大学教授からEU・中近東情勢などを聞く。
11月3日 衆議院第二議員会館で大原社研横関至氏から著書の『農民運動指導
者の戦中・戦後―杉山元冶郎・平野力三と労農派―』と山口希望・堀内庸一郎氏の
政治学会報告の勉強会を持つた。
6日『法然と親鸞展』鑑賞。7日神保町で宇野重吉が出演する東北映画紀行『心の
山脈』を観て原発禍で失われた東北の文化・自然を深く想う。ついでイタリアの
レジスタンス映画『やがて来る者へ』も観る。
8日「オルタ」HPのリニアールについて木村京子氏のアドバイスを受ける。15
日明大で『ILO協同組合振興勧告採択10年―発展の軌跡と展望―』シンポジューム
出席、ILO駐日代表長谷川真一氏・前ILO理事中嶋滋氏や旧知の「生活クラブ風の
村」理事長池田徹氏などの話を聴く。18日ソシアルアジア研究会で菅直人夫人か
ら『首相官邸から見た日本政治』を聞いた。
◎26回連載された吉田健正氏の【A Voice from Okinawa 】は沖縄の視点から
本土のマスコミが伝えない米軍基地問題など読者に強い共感を呼んだが、著者が
体調を崩され残念ながら今月号で連載は休止となり、今後は随時ご寄稿を戴くこ
とになった。長い間のご執筆に心から感謝し、一日も早い回復をお祈りしたい。
【お断り】今月の羽原雅清「落穂拾記」武田尚子「ゆれる移民の国アメリカ」松
田健「アジアレポート」川西玲子「映画を楽しみましょう」は休載となりますの
でご了解願います。
(加藤宣幸 記)
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編集部では忌憚のないご意見・ご要望をお待ちしております。
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